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職場の実態レポート : IT産業の光と影(3回シリーズ)
投稿者: rodo-info 投稿日時: 2007-5-23 0:00:00 (4394 ヒット)





  ――中小零細企業の実態――





「労働通信」2006年11月号の記事より



 シリーズ最終回はIT産業のなかで底辺の部分を支えている中小零細企業の実態をレポートします。

 本題に入る前に、読者からIT産業の労働者がどのような仕事をしているのか教えてほしいという要望がありましたので、簡単に解説したいと思います。

 ひとくちにIT産業といっても、そこにはさまざまな内容の分野が存在します。大きく分類すると、IT産業は3つの業種から成り立っています。

 1つはハードウェア関連で、これはパソコンでたとえるとCPUやハードディスクなどの機械そのもののことです。この分野でもいろいろな仕事内容があります。機械の設計からラインでの生産・組み立て、そして販売など一般の製造業と非常に似ています。

 もう1つはネットワーク関連です。これはコンピュータとコンピュータをつなぐインターネットのプロバイダやNTTなどの電話関連などの通信の分野です。ここでの仕事も、あたらしい通信手段の開発から現在運用されているネットワークの保守など多岐にわたります。

 そして最後はソフトウェア/サービスの分野です。これは人がコンピュータから恩恵を直接うける分野です。たとえばネットショッピングの画面の設計やそれを動かすプログラムの作成など、いくらハードとネットワークが充実していてもこれがよくなければ最終的には人に受け入れられません。それゆえ現在ではIT産業のなかで一番重要視されている分野でもあります。

全文を読むには下記の<続き・・・>をクリックしてご覧下さい。



 そこでの仕事もさまざまで、先程のネットショッピングを例にとると、いかに使いやすい画面にするかを設計したり、実際にコンピュータで動くようにコンピュータ言語を使ってパソコンでプログラミングしたり、またそれらの開発をプロジェクトとしてまとめたり、でき上がったシステムを売り込んだりする営業も必要です。

 本シリーズではこれらのなかでも過酷な労働といわれているソフトウェア/サービスの分野、特にそのなかでもシステム開発の職場を中心にレポートしています。


IT産業を支える中小零細企業

 さて、本題に入りましょう。前2回でIT産業の概観と大手企業の実態をレポートしました。

 しかし、この産業を一番底辺で支えているのは実は中小零細の企業なのです。これは自動車産業の花形トヨタが何千もの中小零細の部品工場に支えられて大きな利益を得ているのと似ています。これらの中小零細企業なくして王者トヨタも世界トップクラスの企業にはならなかったことでしょう。

 同じようなことがIT産業のなかでもいえます。IT産業の大手企業は、できるだけシステム開発の生産コストを抑えるために、たとえばプログラミングの人件費の安い中小零細を探し出し、時にはお互いに競争させさらにコストを下げて生産を委託します。

 もちろんコンピュータの世界では安かろうわるかろうの理屈は通用しません。安い人件費で最高の品質が求められます。中小零細もどうにか大手の下請ではなく独自にシステム開発を受注しようと必死ですが、やはり大手の営業力とブランド力、そしてもしも障害が発生したときの対応能力にはかなわず、大手の下請に甘んじたり、大手専属の開発企業に徹したりしている企業もあります。

 大手企業は、大規模な開発が受注できれば中小零細企業を使い、閑散期には自社社員で対応するという人員調整としても中小零細を便利に使っています。それゆえ、中小零細ではたらく労働者の賃金は低くおさえられ、仕事内容や仕事量も不安定な状況となります。さらに中小零細でこつこつとスキルを蓄え高いスキルを身につけたものは大手に引き抜きされることがおおく、中小零細企業全体のスキルの向上がむずかしいという現実があります。

 取材を通してIT産業の中小零細企業ではどのようなことがおこっているのかを追ってみました。


景気回復したはずなのに

 大阪のソフトハウスA社(従業員約40人)では、景気回復でそれなりに忙しくなり、社員も1生懸命がんばっているのにボーナスや給料が上がらず、不満が高まりつつあります。ある社員は「私自身も、ボーナスが予想以上に低かったため、社長と直接交渉をすすめていますが、ラチがあきません」ともらしていました。

 そして、それらの不満が「営業と技術の対立」という形であらわれています。

 どこに問題の根源があるのか、A社の中堅の労働者Bさんに聞いてみました。

――「景気回復」の恩恵で、A社も受注は増えているのですか?

B たしかに何年か前にくらべると引き合いは増えています。でも、ソフトウエア開発にかかる経費(おもに人件費)に見合わないほどの安い価格でしか受注できず、結果として赤字になってしまうプロジェクトがおおいのです。

――普通に考えれば、「景気回復」で需要が増えれば受注価格も上がるはずです。それでも受注金額が低いのは、A社の営業力がたりないということでしょうか?

B A社の技術者の大部分は、「うちの営業がだらしないから、客のいいなりの価格でしか受注ができないのだ」とみています。たしかに、営業力不足という側面もありますが、そのせいだけにできない、この業界の構造的な問題があると思います。
 一つは、IT業界もピラミッド型の下請け構造になっていて、うちの会社はその下の方に位置していることです。

 さらに最近では、元請のソフト会社が、海外でソフトウエアを開発する単価で予算を編成する傾向を強めているということです。

 以下、これらの構造的な問題を詳しく話していただきました。


技術者の半分しか稼働していない

 技術者は社内の実質的な「稼ぎ手」です。しかしA社の場合、技術者のなかで現在実際に動いているのは半分程度です。

 一番の原因は、顧客の企業の都合で仕事のスタートを待たされることです。たとえば、某社よりある開発案件を受注し、そのプロジェクトが9月からはじまることが決定していました。当社としても、社内の人員を9月から5人ほど確保して待ちうけていましたが、最終ユーザーと某社の間の仕様決めの打ち合わせが終わらず、9月からスタートできなくなってしまいました。

 「もうじき、確定します」「もうじき」「もうじき」といわれ続けて、1カ月がたちました。その間、貴重な戦力である技術者はずっと手があいたままです。システム開発という性格上、手が空いたらちょっとほかの仕事を手伝うということも簡単にはできません。

 本人たちは「技術者にとって、手空きになることほどつらいものはない」とこぼしています。

 しかもスタートが遅れても、納期は当初予定のままです。そのため、いざプロジェクトがはじまると、長時間、過密労働になるのは目に見えています。時間外労働も増えることになりますので、結果としてコストが高くつき赤字プロジェクトになる可能性も高くなります。

 ひどいときは、プロジェクトが中止になってしまうこともあります。たとえば、某社より「来月からあたらしいプロジェクトが必要なので、○○の技術をもった技術者を配置して欲しい」といわれました。ちょうどそのころ、その技術をもった社員がいたので、ほかからの仕事を断って、某社のために待機させていました。ところが、スタートの直前になって、某社からは突如として、「今年度後半の予算がなくなったので、申し訳ないが・・・・・・」と、プロジェクトの中止を伝えられました。結局、この技術者も手あきになってしまいました。

 これらの問題は、下請、孫請の仕事がおおく、仕事の上流でコントロールできないために顧客企業にふりまわされることから生まれた問題です。


赤字プロジェクト

 ソフトウエア開発の場合、コストの大部分は人件費です。顧客からソフトウエア開発の引き合いがあった場合は、このソフトを開発するのにかかる人件費×人数×時間を予測して、見積もりを出します。その内訳としては、労働者に直接支払われる賃金(ボーナス相当分を含む)に社会保険料の会社負担分、会社の共通経費・間接経費分、利益分などを上乗せして計算します。

 中小企業の場合、受注単価のだいたい5〜6割程度が労働者に直接支払われる人件費に相当すると見てよいでしょう。

 ところが、この見積もりを誤ったり、極端に低い価格で受注したりすると、直接人件費が受注単価を上まわり、いわゆる「赤字」プロジェクトとなってしまいます。
 A社が、めずらしく元請などを経由せずに、ユーザーから直接受注した某メーカーの販売管理システムの場合がそうでした。ユーザーとの折衝や仕様固めに予想以上に時間がかかりすぎて、200万円の赤字を出してしまいました。

 また、別の大手メーカーがすすめている基幹システムの再構築のプロジェクトも赤字になる可能性があります。A社にもそのプロジェクトに参加しないかと声がかかったのですが、この案件の単価は1人65万円/月(月200時間上限=200間以上稼動しても65万円以上は払わない)という条件です。

 会社として単価を考える場合、65万円のなかから、労働者に支払う賃金(ボーナス相当分含む)、残業手当、社会保険料の会社負担分、会社の共通経費、利益などを払うと、「赤字」になってしまう可能性もあります。会社として受注した方がいいのかどうか、かといって受注しない場合、ほかに仕事があるのか、苦渋の判断をせざるを得ない情況となっています。


IT業界でも低賃金

 仕事が不安定で「手すき」の労働者がおおかったり、「赤字」プロジェクトがつづくと、労働者の賃金にしわよせされてしまいます。

 A社の場合、未経験者の初任給は正社員でも税引き前で14万4000円です。半年から1年して仕事がある程度できるようになると、18万円〜20万円程度になります。さらにベテランになると30万円以上の人もいます。

 ボーナスは夏と冬にありますが、業績がわるいとボーナスはありませんし、あっても年間2ヵ月分もありません。年収にすると、300万円前後の労働者が大多数で、400万円をこえる労働者はごく一部です。

 「この歳(30歳)になって、手取り20万円じゃやってられない」。

 勤続4年のCさんは9月末でA社を退職しました。かれの場合、毎月の手取りが20万円、夏・冬のボーナスがそれぞれ30万円なので、合計で年収300万円程度です。

 転職先は派遣会社で、毎月45万円もらえることになっています。ただし、通勤交通費や残業代もすべて45万円のなかにふくまれるという条件です。ボーナスもありません。社会保険にも入れず、国民健康保険です。所得税も自分で支払わなければなりません。「派遣」とは名ばかりで、実際は業務請負です。結局、手取りは毎月35万円程度、年収にしたら420万円程度です。

 年収は120万円増える計算になりますが、請負の仕事なので、つねに仕事があるとはかぎらず、不安定です。


人材不足と会社の地位低迷の悪循環

 IT業界では、企業がどれだけ「優秀な人材」を確保できるかが決定的な意味をもっています。そのため人材不足はかなり深刻です。

 A社でも、人材不確保に苦労しています。低賃金では経験をもった技術者の中途採用はまず望めません。新卒者の場合でも、まず大手から就職先を決めていきますので、ほしい人材は先に大手に取られてしまうのが現実です。

 結局、まったく経験をもっていない新人を14万4000円の低賃金で雇い入れ、一から教育をおこなって技術者を育成して、人材確保につとめています。しかし、ある程度、成長しIT技術者として実力がついてくると、A社のような低賃金ではイヤになり、Cさんのようにより賃金の高い会社へと移ってしまう傾向があります。そのため、A社には企業としての技術の蓄積や継承が十分にできず、なかなかピラミッドの下層から脱却できないという悪循環に陥っています。


構造的問題にメスを

 シリーズ「IT産業における光と影」では、第1回目ではこの業界の概況を、2回目は大手のIT企業の実態を、そして今回は中小のIT企業の実態をみてきました。この3回を通じて、IT業界がもつ構造的な問題がある程度うきぼりになってきたと思います。

 IT業界ではたらく労働者の状況を変えていくためには、個々の職場だけでは解決がむずかしく、この業界の構造的な問題を変えていくような政策が必要となってきます。その点についてはまた機会をあらためて検討していきたいと考えます。


――――――――――――――――――
IT産業の光と影(3回シリーズ)
第一回 華やかな表舞台の裏側はどうなの?
第二回 大手IT企業の過酷な現場
最終回 中小零細企業の実態






 

 『労働通信』は、現代の労働者が直面する問題や日本と世界の労働運動について隔月刊で編集、発行している雑誌です。

 編集委員は全員が職場ではたらき運動に参加している労働者です。また、全国の職場で奮闘している活動家のみなさんからの投稿にささえられて発行しています。

 購読料は、一部500円(送料込み)、年間で3,000円です。

 購読のお申し込みは「労働通信」ショッピングモールからどうぞ。
 





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