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集 グローバル化のもとでの「春闘」

 

『労働通信』2000年3月号

 2000年「春闘」は、グローバル化(国際化)や情報化、規制緩和のもとで、人人の生活が激変するなかでたたかわれている。このなかで、政府や財界、労働組合の動き、職場の状況がどうなっているのか、「春闘」のなかでどういう方向を追求すべきかについて考えてみた。

 今年の「春闘」で、財界、独占資本は、日本経済の「国際競争力」を強化するために、賃金・雇用制度から、企業組織のあり方、社会保障制度にいたるまで全面的なリストラ攻撃をつよめようとしている。

総額人件費削減が基調

  日本経営者団体連盟 (日経連)は1月12日、臨時総会をひらき財界の「春闘対策」である「労働問題研究委員会報告」(労問研報告)を了承した。

 今年の日経連総会では、過酷な人員削減にたいして社会的な批判がつよまるなかで、奥田会長が「みずからの責任をタナにあげて『過剰雇用を整理するのが構造改革だ』などと、問題をすりかえてひらきなおっている経営者がいるとしたら、まことになさけない」と、「自戒をこめた経営者の責任論」をとなえた。また、労問研報告のタイトルも「人間の顔をした市場経済」をかかげ、非情な競争原理、市場原理にたいするマイナス・イメージをすこしでも払拭しようとしているようであった。

 だが、労問研報告の内容そのものは、従来どおり「総額人件費の削減」を基調とするものである。

 「総額人件費の削減」とは、賃金のみならず、雇用や労働時間をふくめた人件費全体を圧縮しようとするものである。

 賃金については、年功型賃金から成果・実績主義、能力主義の賃金へ移行することを主張するとともに、「やむをえず賃金のひきさげをせまられる企業も数おおい」としてはじめて賃下げをうちだしている。

 雇用についても、ひきつづき雇用の流動化によって中高年や女性、外国人の労働力を活用することをとなえ、個個の労働者にたいしてはエンプロイヤビリティ(雇用される能力)―――すなわち、リストラされても自分の力であらたな就職先をみつけるだけの力を身につけることを要求している。

 さらに、「正規従業員の仕事・価値をあらいなおし、仕事の性格・内容によっては時間給管理が可能なものは、時間給賃金とする発想も必要ではないか」として、従来の正社員のかなりの部分も実質的にパート社員化することも主張している。

 これは、正社員は企業の心臓部分ではたらく少数の労働者だけに限定し(その賃金は、年俸制や成果・実績主義)、大多数の労働者は時間給を基本にした臨時、パート、派遣などにかえていこうという「新時代の『日本的経営』」(九五年に日経連が発表した構想)をさらに具体化していくものである。

 また、今年の労問研報告では、雇用対策の一つとして「ワークシェアリング」(仕事の分かち合い)を検討することもよびかけている。その内容はヨーロッパでこころみられている賃下げなしの35時間労働制によって失業率の改善をはかる「ワークシェアリング」ではなく、サービス残業の実態を野放しにし、現役労働者の賃金のきりさげを要求するものであり、資本家の「いいところどり」を主張するものである。

リストラ促進の法整備

 今年の「春闘」で、日経連の労問研報告とならんで注意しておかなければならないのは、産業再生法や民事再生法、商法の改定など、企業のリストラをうながす法律の整備がすすめられていることである。

 産業再生法は、昨年成立した法律で、過剰設備をかかえる企業がその設備を現物出資して新会社を設立し、共同で余剰生産力を削減する制度や企業の合併・提携について税制上の優遇措置などをもうけている。

 今年の国会では商法の改定も予定されている。その内容は、これまでみとめられていなかった企業分割の規定をもりこむものである。

  商法改定 について日本労働弁護団は、労働者の雇用や労働条件に大きな影響をあたえ、判例で確立されている整理解雇を制限する法理や、転籍には労働者の同意を必要とする原則を「事実上否認することになる」と警告している。

労働者の生活にも深刻な影響与える国際会計基準

 さらに今年の3月期決算から企業の会計が「国際会計基準」というものに順次かわろうとしている。
 企業の会計というと、労働者にはあまり関係がないようだが、じつは退職金や企業年金、リストラなど、いろいろな面で労働者の実生活に深刻な影響をもたらすものである。

 「国際会計基準」とは、「グローバル化」の名のもと、国境をこえた投資や資金の調達をすすめるために、企業の会計のやり方を国際的に統一しようというものである。そのひな型になるのは、アメリカの企業の会計制度である。

 この「国際会計基準」とこれまでの日本の企業の会計との最大のちがいは、「時価会計」と「連結決算重視」である。

 「時価会計」とは、株などの含み益(含み損)を正確に計上して、企業の体力を測定しようというものである。これをすすめていくと、企業年金や退職金など、その企業が将来的に負担しなければならないものまで計算しなければならない。そのため、企業年金や退職金の削減を考えざるをえなくなる。

 もう一つの「連結決算重視」とは、子会社や孫会社の会計の赤字までふくめて、そのグループ企業全体の損益を問題にするというものである。そうなると、収益のわるい子会社にたいするリストラ攻撃がつよまらざるをえない。

国際的市場競争が背景に

 こうした経済政策がうちだされてくる背景には、アメリカ、ヨーロッパ、日本などの帝国主義諸国の市場をめぐる争奪と相互浸透がかつてなく深まっていることがあげられる。

 世界経済の成長率は、1960年代には年率5%であったが、70年代、80年代と歴史的に低下し、90年代前半には二%台にまでおちこんでいる。その一方で、世界全体では失業者は10億人をこえている。

 このようななかでアメリカ、日本、ヨーロッパなどの帝国主義諸国は、労働者、勤労人民にいっそうの犠牲をおしつけることによって、危機からの「脱出」をこころみている。

 帝国主義国はいずれも、情報通信産業をてこにして産業構造の転換をすすめ、情報技術をつかって全産業での「合理化」をすすめるとともに、行政改革、規制緩和、パートや派遣労働者の拡大など雇用の「柔軟化」をすすめてきた。その結果、アメリカは比較的長期に「好景気」をつづけているが、国内の貧富の格差はますますひろがっている。

 この過程で、アメリカ、ヨーロッパ、日本などの帝国主義同士による世界の市場や権益をめぐる争奪は、はげしさを増し、「大競争時代」の到来をもたらしている。

 その顕著なあらわれが、情報通信、金融、自動車、電機などあらゆる産業で、アメリカ、ヨーロッパ、日本などの巨大企業同士の世界的な規模での合併や資本・技術の提携などがすすんでいることである。それは、企業同士の国際的な「協調」がすすんでいることを意味せず、むしろ相手を利用し、だしぬくために合併や提携をおこなうものであり、競争はますます激化せざるをえない。インターネットをはじめとする情報通信革命は、この「大競争」をいちだんとうながしている。

 重要なことは、長期にわたって経済不況にみまわれ、「国際競争力」を低下させている日本資本主義にたいして、アメリカ政府と独占資本による支配がつよまっていることである。不良債権処理のために3兆6000億円もの血税をつかって一時国有化した日本長期信用銀行を、アメリカのリップルウッド・ホールディングがわずか10億円で買収したのは一つの例である。

 アメリカ帝国主義はこの機会に、個人資産で1200兆円の規模をもつ日本市場への参入をはかるとともに、日本を拠点にしてアジア諸国への支配をつよめようとしている。

 日本帝国主義も、アメリカ帝国主義とはげしい利害の対立をもちながらも、アメリカの要求をうけいれることでみずからの「国際競争力」を高め、世界支配にひきつづき参画しようとしている。

 労問研報告や産業再生法、商法改悪、国際会計基準の導入も、こうしたアメリカ、日本をふくむ世界帝国主義の意向にそったものである。

あらためて原則の提起を

 こうした情勢のもとでたたかわれる2000年「春闘」では、あらためて労働運動の階級的原則を提起し、21世紀にむけて労働者解放の運動の大きな発展をかちとる基盤をかためることがもとめられる。

 その第一の課題は、「成果・実績主義」や「能力主義」の考え方がふりまかれるなかで、資本家と労働者のあいだには共通の利害はなく、労働者が団結して、賃金のひきあげや雇用、権利の要求をかかげてたたかわなければ、ますます賃金や労働条件がひきさげられることを具体的な問題をとおしてはっきりさせることである。

 労働者のなかでも、ここ数年間の過酷なリストラ攻勢や、「成果・実績主義」にもとづく査定がただしくおこなわれないことなどの実体験をとおして、「企業の論理」への疑問、批判が高まっている。この根本的原因が資本主義的搾取制度にあることをあばいていく条件はますますつよまっているといえる。

 第二の課題は、労働者が集団的な方法で資本家とたたかうもっとも重要な組織である労働組合の活動を強化し、未組織の職場では労働組合の組織化に全力をあげることである。 大きな産業別労働組合では、職場討議などもおざなりにされ、賃金交渉に下部組合員がかかわれる余地はまったくといってよいほどない。だが、かつてないリストラ攻撃のなかで、労働者のなかに労働組合への期待がつよまっていることも事実である。連合などの中央幹部も、かたちだけではあるにせよ、日経連の賃下げ政策や、政府がすすめる労働法改悪や年金改悪などにたいして批判をつよめ、大衆行動をとりくんだり、未組織労働者の組織化に「渾身の力をふりしぼる」(笹森事務局長)といわざるをえなくなっている。

 こうした条件もつかいながら、分会・支部段階から職場討議をおこすことや教宣活動などから出発して、下部組合員の声を労働組合に反映し、それを集団的な力にかえていく活動を追求しなければならない。

 第三は、これらの活動をすすめていくうえで、労働組合や労働者のなかでの教育学習活動が重要である。

 搾取の仕組み、賃金論、労働組合論、世界資本主義の現状、政府・独占資本の政策、農民など他階層の人民の状況、世界の労働者のたたかいについて、労働者の階級的政治的な意識を高めていくことが重要である。とくにグローバル化がすすむなかで、全世界の労働者と団結してたたかう視点をはぐくんでいくことがもとめられている。


「ワークシェアリング」は何をもたらすのか
「労問研報告」を読んで

東京都内 非常勤職員

 1990年の過剰生産恐慌以降、日本の資本家階級が欧米の同階級に見習い強行してきた「新時代の日本的経営」への移行により、日本の労働者は日に日に生活水準をひきさげられてきた。リストラされた労働者の再就職先はほとんどがより賃金がひくく、雇用が不安定な仕事である。

 私自身も80年代につとめていた「花形産業」のコンピュータ・ソフトの会社をリストラされ、都内で非常勤の仕事にようやくついたが、額面収入が失業保険給付とおなじ額であり、手取りはそれよりもすくなく、雇用期間も六年と制限されている。

 おおくの労働者がこうした生活をしいられているのだから、国内消費が拡大しないのは当然だろう。

 最近ではわずかながら景気回復のきざしがみえてきたのにもかかわらず、有効求人倍率がいっこうに上むかないために(ちなみに有効求人倍率0.5というのは七五年の戦後初の世界同時恐慌いらい)「景気回復と雇用回復は同義語ではない」ということさえマスコミが報じるようになった。

 日本の資本家階級のあせりと不安が高まっており、今年の日経連の労働問題研究委員会報告(労問研報告)にはかれらの本性がむきだしになっている。企業の生き残りのためにあらそって労働者を解雇しているにもかかわらず、「労使にとって最重要の課題は雇用の安定」であり、「そのために、賃金水準のみならず、賃金体系、退職金・年金などの見直し」にくわえ、今年はワークシェアリング導入など、労使が痛みをわかちあう施策を検討したい」という。

 日本の資本家階級がワークシェアリングの導入でなにをしたいのかは、報告の本文のなかで紹介されている2つの図表で露骨にしめされている。一つは図表の7「賃金の国際比較」で、9カ国の時間給と月給の比較であり、日本の労働者の賃金がその両方とも外国にくらべて高いとしている。二つ目は図表14「パートタイム労働者比率と失業率」で、パートタイムの比率が高い国は失業率が低いという相関図である。

 この二つの図表からいえることは、パートタイム労働者をふやし、さらにパートタイム賃金をさげれば、日本の労働者の雇用が拡大するということである。日本国内の最低時給は1000円にも達していない。また、日本は世界一物価が高い国である。こうした状況であるにもかかわらず「ワークシェアリング」の導入がすすめば事態はどうなるか、火を見るよりもあきらかである。

 

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