『労働通信』2000年3月号
「国際競争に生きのこる」というスローガンのもと、国境をこえた資本の合併・提携や海外生産などが、過酷なリストラ攻撃をともなって労働者におそいかかっている。その現状を、自動車、ゴム、運輸、NTTなどの労働者から報告してもらった。
「これからの生活設計を十分に考えろ」という課長自動車産業労働者 貝原 一 |
年頭のあいさつで課長より「これからは世界的な部品調達・部品工場により、組み付け、搬入など本社工場による仕事にも変化がおこる。それにともない、うしろむきの考えかもしれないが、開発費の圧縮などがみなさんの生活にも影響をおよぼすように思われる。ローンや生活設計を十分に考えてほしい」という話が、100人ちかい係の労働者にたいしていしておこなわれた。
職場では「景気が回復したらなんとかなる」という楽観的な意見から、「そのとおりだ。これからはもっときびしい時代になる。本社工場で開発する部品は重要な部品だけになり、他の部品は部品メーカーで開発の段階からつくられるようになる」と、商業新聞やテレビなどの報道をもとに、客観的な情勢を分析しての意見もだされていた。
私が働く自動車会社の開発部門の最近の状況は、三次元統括コンピュータによる設計・開発・生産・販売までの一元的な管理システムの導入により、図面による製造から三次元コンピュータによりデータをベースに製造されるようになった。これにより、図面からマシニング用にデータを移行する作業がはぶかれるようになっている。
自動車産業をめぐる世界的な規模での市場競争ははげしさをまし、地球規模でのM&A(買収・合併)が急速にすすんでいる。将来的にはGM、フォード、ダイムラー・クライスラー、フォルクスワーゲン、トヨタの五社しか生きのこれないのではないかといわれている。その他のメーカーは、企業規模を縮小し、得意な分野で世界的な企業の傘下にはいり、生きのこりをねらっている。
私の会社でも、その世界的な自動車産業の再編の波はおしよせ、小型自動車開発の技術力とアジア市場への進出という「優位性」で海外メーカーの傘下にはいり、生きのこりをねらっている。さらに、「国際競争力」を高めるために、部品メーカーを海外メーカーの世界的な部品調達網のなかで競争させ、資本力や技術力のないメーカーは淘汰されている。そして開発費の縮小をねらい、海外メーカーとの共同開発もおこなわれ、開発の段階からきびしい要求がつきつけられ、以前とはちがった部品性能の基準でつくられ、労働者への負担はおもくなるばかりである。
しかし、苦労して開発しても、車のベースとなる車体や部品の共通化がかなりおこなわれており、海外メーカーの生産拠点でも当社の自動車を生産することができるようになっている。為替レートの動向や海外メーカーの世界戦略の動向によって国内の生産拠点の空洞化がすすむのは必至と思われる。
そうした状況のなか、2000年「春闘」がはじまった。例年の「春闘」とかわったところは、55歳以上の労働者一時金の支給配分が86%であったものが100%となり、そのかわりに全組合員にたいして一時金の14%をしめていた家族給・年齢給を成績給・職能給に移行させることである。
組合執行部では職務評価・支給額の低下について疑問視する声がだされ、組合の苦情処理委員会で相談をうけるということでおさめられた。
職場では「だれが評価するのか」「不公平にならんように社外に委託する企業もある」「現場に能力制度を重視する賃金形態を導入すると、職場の人間関係がぎくしゃくして仕事にならないのではないか」など、職務評価にたいする意見が中心にだされた。
しかし、職場討議で意見がまとめられ、代議員に報告されるでもなく、今回は執行部の情宣の日程もつけられず、突然、食事中に食堂でおこなわれてはじめてわかるなど、組合活動が労働者自身のものとして機能していない現実がある。
でも労働者のなかで「組合がなくてもよい」という声はだされることなく、「急に解雇されないのは組合があるからだ」「なにかあったら組合に相談したらよい」という認識は労働者のなかに普遍的に存在しており、組合活動をどうしていくかが課題となっている。
そして、日常的な会話で「車をつぎつぎと開発しても、売れないことにはどうしようもない。景気が悪い、悪いというが、景気が悪いというのは意識の持ち方だから、景気が悪いという報道をするのが悪い」「景気はこれ以上よくならない。わしらの懐はさびしくなる方向にいきよる。個人消費というのは景気の動向にかなり左右する。わしらの収入をへらすというのはよくない」「わしもそう思う。企業がもうけたものは、わしらに還元せんにゃあようならん」と自分たちの産業的な動向から経済の話になる。戦争などの時事問題も、そのときどきで話題になるが、経済的な動きの延長線上で語られる。
だが「いまの世の中は良くない」と共通してだされる一方で「ソ連の崩壊」「北朝鮮の孤立的な状況」などの意図的なマスコミ報道が、労働者の展望をふさぎ、つぎなる社会への道はみえてこないという趣旨のことも語られている。展望を見いだす社会とはなになのかをはっきりさせていく必要があると思う。
それでも「メイド・イン・ジャパン」?ゴム産業労働者 佐藤 史子 |
私は靴製造会社につとめていますが、最近は靴をつくるために必要な部材がほとんど海外調達になっています。靴の外底、靴紐など、靴の「生産計画」にもとづいて輸入されてきます。入荷した部材はそれぞれの部署から担当の労働者が各ラインに運搬し、ラインが動きはじめると、日本の労働者が秒単位で自動機をこなし、また長年の手さばきでいろんな品種の靴をみるみるうちにつくりあげていきます。
会社は「コスト削減」を徹底し、利益を追求しています。すでに靴そのものの輸入は「人件費が安くつく」ということで、二十数年前から年年増えていますが、いまは、靴の「仕様材料」から外材をつかい、各部門への「コスト意識の徹底」でますます海外へ、海外へとエスカレートしているように思えます。
「海外調達」のなかで、問題も多発しています。部材のクレーム品がめだつのです。縫製が仕様書どおりになっていなかったり、染め具合が微妙にちがったり、「海外調達」当初にくらべるとクレームの数はかなり減りましたが、幸か不幸か、まだまだ国内でのチェックや、「補修」の仕事はなくなりそうにもありません。パートさんいわく「おかげさんで当分仕事にありつけそうね」と。
最近、「いまごろは、ほとんどの材料が輸入品で、それを私らが組み立てているだけなのに、それでもメイドインジャパンなの?」という話になったので、管理職にある労働者が質問したら「日本で組み立てたらメイドインジャパンになる」ということでした。
ちかくの縫製工場では、中国の婦人労働者がミシンをつかい、稼いだお金を本国に送っているそうですが、外国の労働者が組み立てても「メイドインジャパン」の製品になるのかと思ったら、へんな世の中になってきたもんです。
いま、国内外の生産から販売までコンピュータで情報が管理されています。つぎからつぎへと高度な技術が利用されているので、「同仕様」の生産が各国でかんたんにできるのではないかと、自分の仕事をつうじて感じているところです。
会社は利益を追求するために、労働者を世界にかけめぐらせていますが、一方では仕事をつうじて、団結して共同の作業をしなければ良い製品ができないことも身につけています。また、これまた「おかげさんで」、普通の労働者が最低三カ国語ぐらいはマスターせざるをえないようになっているのです。
資本の海外進出のなかで、労働者階級としての自覚が国際的に高まっていく条件ができていると思います。
コスト割れ覚悟で大手が参入し中小運送業者をなぎたおす運輸産業労働者 神林 浩明 |
トラック運送業界では、規制緩和によってコストさえまかなえない運賃単価になっている。
毎年、約1250社があらたに運送業界に参入してきている。
独占資本、大手が市場を占有する傾向と条件がますます増大している。かれらは、コスト割れ、「赤字」を覚悟で、安い運賃で顧客をうばいさり、これと競争できない中小の運送業者をなぎたおしている。
引越部門では、引越の「サカイ」が相場である4トン車1台8万円を5万円にするという「価格破壊」をやり、ヤマト運輸、日通も運賃の引き下げで対抗するという歯止めのない価格破壊競争が展開され、中小は引越そのものからの撤退を考えざるをえない状況にいたりつつある。
私の働く会社は、引越の売上が年間売上の40%以上をしめており、会社の存亡にかかわる事態となっている。
他の部門では、大手や経済連(農協)の下請事業からの収入が年間売上の40%をしめているが、ここでも単価のきりさげが毎年、要求され、利益の減少、コスト割れに歯止めがかかるみとおしがみえない状況にある。
「国際化」のなかでトラックの大型化がすすみ、「国際会計基準」の導入も、私たちがはたらく中小企業の経営にも影響をおよぼさざるをえない。中小である会社の企業展開そのものを再検討せざるをえない状況にいたっている。「運賃いくら」という考えそのものを見直さなければ、存続が維持できないのではないかと考えられる。
会社の体質を変えていくとともに、企業内組合から、独占資本による中小のなぎたおしに反対する労働組合運動への転換がもとめられている。