『労働通信』2000年5月号
小渕首相の急病により、内閣は森内閣へとかわったが、人人の生活を破壊する「大改革」はひきつづき強行されている。これは、「グローバル化」のもとで、日本の独占資本が国際競争にうちかつための政策の一環である。雇用保険法の改悪など最近の動きをみてみよう。
自民党は、年金改革法案の成立と前後して、とつぜん、チェックオフ制度の廃止を柱とした労働基準法の改正を検討していることをあきらかにした。
労働者が使用者から賃金をうけとるさいに、労働基準法では5つの原則がさだめられている。それは、
――である。
つまり賃金は、通貨で直接全額労働者にきまった日に支払われるのが原則である。ただし、厚生年金や雇用保険、税金など法令で別段にさだめる場合や労働組合との協定がある場合は、現物支給や天びき、給与ふりこみが認められる。組合費のチェックオフもその一つである。
自民党が問題にしているのは、労組が企業と協定をむすんで組合費を天びきするのはおかしいといって、労基法二四条を改定し、労働組合が賃金から直接組合費を徴収するのを防止しようというものである。
労組への組織率が低下してきたとはいえ、大きな労働組合が労働者ひとりひとりを訪ねて、毎月組合費を集金することは、たいへんな労力をついやすことになる。
自民党のこのような策動の根拠は、年金改革法案反対闘争で、連合、全労連などの労働組合が共同で反対闘争にとりくんだことにある。
この運動の内容はともかく、労働者や労働組合が組織のわくをこえて年金改革法案に反対したことににくしみを感じた自民党は、労働組合の活動を抑制していくために、このような奇策をうちだしたのである。
労働者のなかには、「組合費が自動的に本部や支部にすいあげられるから役員がふんぞりかえる」という意見がある。
たしかに、職場の労働者と一部の役員とのあいだにはおおきなへだたりがあるのが実際だ。チェックオフ制度のために下部組合員から幹部が遊離し、また最近の労組運動の停滞のため、下部労働者の不信がつのっている労組もおおいのも事実だ。
このような職場の労働運動や労組の活動をかえていくことは、労働者にとって重要な問題となっている。
しかし今回、自民党のこのような策動はあからさまな組織破壊攻撃であり、労働組合にたいする敵対的な挑戦にほかならない。労働者自身が労組の役割を再認識するうえでもたいせつな課題である。
自民党は雇用問題や失業問題はまったく放置。それどころか産業再生法を国会に提出し、さらなるリストラ「合理化」をすすめるだけでなく、労働者の団結権をうばい、組織的な行動を破壊しようとしている。政府・自民党が策動しているチェックオフ廃止を中心とした労基法の改悪、産業再生法の成立に断固反対し、労組運動を活性化させよう。
労働省は、これからの「リストラ・合理化」をいっそうすすめていくために、雇用保険法の改悪をもくろんでいる。
これまで雇用保険法では、だいたい10年以上おなじ職場に勤務して、会社都合で退職すれば、失業手当として最高300日分(いわゆる失業保険)が給付された。
しかし、政府がもくろんでいる雇用保険の改悪案では、つぎのようになっている。
第一に、基本手当て(失業手当)の給付日数の変更である。
現行では、90日から300日となっているが、「改正案」では、一般離職(定年をふくむ)の場合は、年齢、被保険者であった期間にもよるが、90日から180日と半減される。
反対に、倒産や解雇などによる失業については、90日から330日とすこし延長される。
これは、「リストラ・合理化」による解雇をすすめやすくし、その保障を政府がおこなうというものだ。
第二に、教育訓練給付というものがある。これは労働者が転職・再就職するさいに、教育・訓練を受けると、その費用の一部が給付される制度だ。この支給金額の上限20万円が30万円にひきあげられる。
これは、リストラなどで解雇された労働者に技術習得をうながすものとなる。
失業者にとって、あらたな職につくための職業訓練も一つのせつじつな要求であり、政府がそれを保障していくことは必要なことである。だが反面、この制度は企業が労働者の多能工化をすすめたり、リストラ「合理化」をすすめるための道具にもなるものである。
また再就職手当については、暫定処置としての20日分の上乗せは廃止となる。
また雇用保険の保険料率、ふつうこれは、一般の事業で1000分の11.5でこのうち雇用安定事業、能力開発事業、雇用福祉事業にかかわる負担1000分の3.5は全額事業主の負担である。残りの1000分の8の保険負担を労使で折半負担しているが、この負担率が「1000分の8」から「1000分の12」にひきあげられる。これは2001年に予定されている。
このように労働者にとっては、保険料はひきあげられ、倒産・解雇による失業給付が多少ふえたところで、焼け石に水である。
雇用保険法の改悪は、年金の改悪とならんで、労働者にとって、まさに福祉・社会保障の国家責任の放棄にほかならない。
政府は、厚生年金など公的年金制度の改悪を昨年から準備してきたが、3月28日、おおくの労働組合や野党が反対するなか、年金改革法を成立させた。
年金改革法は、高齢者だけの問題ではなく、むしろ現在、ひたいに汗をながしてはたらいているおおくの労働者のせつじつな問題である。
政府は、「少子高齢化で国庫に余裕がなくなった」として、年金の支給内容を大幅に改悪する。その内容は、
――などというものである。
また、年金をもらいながら労働している高齢者にたいしては、65歳〜69歳のあいだにもあらたに保険料の負担をもとめ、同時に収入に応じて報酬比例部分の支給をカットしようというものである。
また2003年度からは、これまで徴収していなかったボーナスからも月収とおなじ比率で保険料を徴収することも決定された。
これらの「改革法」は今年の4月から即日実施される。同時に国家公務員、地方公務員、私立学校職員、農林漁業団体職員の共済年金制度についても四月から支給水準を5%ひきさげることが決定された。
政府は、年金改悪で影響を受けるのは将来の世代だけだと宣伝してきた。が、実際には現在、夫70歳、妻68歳のケースで300万円、夫40歳、妻38歳の夫婦で1000万円、夫30歳、妻28歳の夫婦で1100万円の大幅給付減になる。
しかも定年が60歳で、支給開始が65歳となれば、5年間の空白をどのようにしてうめるのか。
企業からの退職金だけではとうていうめることができず、労働者は定年になってからのことも悩まざるをえない状況に追いこまれてしまう。
国による公的な年金制度を破壊する一方で、小渕前内閣は、3月3日、確定拠出型年金(いわゆる日本版401K)とよばれる年金制度の導入を閣議決定した。
これは年金加入者や企業が、毎月一定額の掛け金をつみたて、支給額は積立金の運用実績に左右されるあたらしい私的年金制度である。
当面加入できるのは60歳未満のサラリーマン、自営業者である。加入者の判断で運用方法を選択できるが、運用実績がわるければ、拠出額より年金が減る可能性もある。
公的年金制度を改悪しながら「日本版401K」を導入し、年金支給額が減っても「運用に失敗したあなたの責任」でことをすませようというのが政府の姿勢である。
介護保険問題についても、その認定の方法があいまいであったり、地域によって保険料がことなる矛盾があきらかになってきている。
年金問題も、60歳から65歳までのあいだどうするのかということにすら明確な回答がでていない。
労働者は現役のときは「リストラ・合理化」でくるしめられ、賃金は上昇せず、毎日の負担は増加し、しかもその見返りにはなにもない。
資本家による労働者への抑圧はべつに抽象的にあるわけではない。このような福祉の放棄、なけなしの賃金からでさえ「保険料」をうばいとり、保障を放棄する年金改悪にたいし、労働者は、高齢者への国家による全面的な保障を訴えていくことがたいせつである。