『労働通信』2001年7月号
わたしは、ある百貨店のいわゆる「デパ地下」の食料品売場で、出店先の派遣社員としてはたらきはじめて四年になります。この百貨店には約一〇〇〇人(正社員三二〇人、パート、アルバイト、派遣などの労働者七〇〇人)がはたらいています。
いま、職場でかわされることばは、「売り場はいそがしい?」、「きょうはひまよ」、「いいえ、きょうもひまでしょう!」、「お客がこないねー。売れないねー」。これが日常のあいさつがわりの会話となっています。
事実、二〇〇〇年の売上高は、対前年の二・二%減の二五五億円と四年連続して前年われになっています。ところが、経常利益は対前年七六・六%増の五億円、当期利益は対前年二一四%増の二億円になっています。売上が減っているのに、利益は大幅にふえているのです。
それは、百貨店の経営者が、売上減少のなかで、あらゆる経費のみなおしをはかってきたからです。
経費削減の断行としてこの三年間、新入社員をほとんど採用せず、全正社員の二〇%におよぶ一〇〇人の人員削減(現在、正社員三二〇人)、賞与の二〇%カット、アルバイトの経費、時間外手当の大幅削減、そして少数精鋭主義と成果主義の人事制度の導入などをすすめてきました。
この四年間で、わたしが感じた「どんどん減ってきたことと、どんどん増えてきたこと」について話したいと思います。
その一は、来店客が減り、売上がおちたこと。
その二は、売上減を理由に常勤者(出店先)や百貨店正社員のおおくが給料、ボーナスを減らされ、かわりにただばたらきが増えたこと。
その三は、定休日(年間一〇日)が減らされ、営業日数や開店時間の延長が増えたこと。
その四は、百貨店の正社員の大幅な人員削減と常勤者の欠員補充には、パート、アルバイト、人材会社の派遣社員があてられており、不安定雇用労働者が増えたこと。
その五は、特別販売などの売出日が増え、長時間勤務や時差出勤が増えたこと。
その六は、販売以外の作業(これまで正社員がおこなっていた事務処理などの代替わりや、レジのコンピュータ化にともなう作業)が増えたこと。
その七は、売上目標、ノルマの達成、SP運動(全従業員を対象にした販売活動、年間二億円)の目標額が増えたこと。
その八は、各店や販売員のあいだでの売上競争がいっそうあおられ、対人関係のトラブルが増えたこと。
その九は、お客さんの苦情(顧客への過剰サービスのため、どんなささいなことでもすべてとりあげるため)が増え、個人の責任追及がつよまる一方で、いわゆる「おほめのことば」をいただいた販売員は顔写真をはりだされ、全館で紹介されるようになったこと。
その一〇は、従業員の不祥事を理由に保安による出勤時の所持品のチェックや勤務時間内での外出などの監視体制もつよまったこと。
ここに、売上がへったのに、利益がふえたからくりがあるのです。
しかし、わたしたちは売上、ノルマで追いたてられており、おおくの人たちは、「仕事のきつさよりも精神的なストレスのほうが大きい」、「職場の人間関係もわるくなった」、「コンピュータのレジにかわって、お買上レシートに取扱者の名前がはいるようになって、お客さまから直接クレームの電話がかかってくる。管理者はお客さまのいうことを聞いても、わたしたちをまもってはくれない」、「月に何回も特販日を増やすので、ふつうの値段ではもう品物が売れなくなった」、「百貨店側はもうかるかもしれないが、テナントは損をし、そのしわよせがみんなわたしたちにくるようになった」、「こんな営業しかできないのか!」と、百貨店側の経営陣を批判しています。
また、「企業でながくはたらくと思うな。退職金があると思うな。年金があると思うなと、テレビで政治家がいっていた。だから安心して昔みたいにいっぱいモノを買う人がいると思う?」、「消費低迷というけど、わたしも給料は減らされたし、お客さんのなかにも失業者はいるし、年金の支給がおそくなったうえにわずかしかもらえず、そのうえ高い医療費や介護保険料を払わされる。これも政治がわるいからだ」との声もおおく聞かれます。
「わたしたちも、モノがかえない。だから、モノがうれなくて企業が倒産し、失業者が増える」と、自分たちの実生活から政治や経済に関心をもたざるをえなくなっているのが実際です。友人や仲間のなかでは「世の中をどうみたらよいか」と話しあいになっています。さいきん、売場で目につくのは、大卒や短大卒のわかいものが「就職先がないから」と、短期のアルバイト(日給五一〇〇円)ではたらきにきていることです。就職難、わかものの失業など、ほんとうに事態は深刻です。
こうした現状を、この百貨店の経営陣はどのように分析しているかを調べてみました。つぎのようにいっています。
「企業をとりまく環境」として、ながびく雇用不安や将来への不透明感による消費マインドひえこみは深刻で、百貨店業界は回復の手ごたえさえ感じられないきびしい状態がつづいている。また会計制度の変更にみられるグローバル化、規制緩和、技術革新の面からマーケット、競合状況は大きくかわる。こんごの企業経営は、投資家(株主)の利益、保護を優先させざるをえなくなる。
二一世紀へのいきのこりをかけたこんごのみとおしは、「生産から消費という経済活動がなくならないかぎり小売業はなくならない。百貨店本業のながい歴史からいえば、この数年間のきびしさは瞬間的な現象にすぎない。消費成熟期にはいったこんにち、人人の心をゆたかにし、たのしさを演出できるのが百貨店である。百貨店の将来は、けっして暗くないとはいえるが、いきのこりをかけた経営をすすめるには二つの経営課題にとりくまなければならない」。
- お客様に支持される営業活動として、「上質で人にやさしい地域に密着した百貨店」とし、地域への貢献をめざすための社員の英知をあつめる。
- 経営体質の改善として、百貨店はこれまで仕入れと販売の両面で取引先に依存しすぎたため人材がそだたず、固定経費が高どまりし、高コスト、低収益の構造となった。ローコスト経営をはかるため、営業費のだいたんな圧縮、少数精鋭主義と成績主義人事制度の確立・新退職金制度の確立をすすめる。
一方、労働組合は、企業の存続があってはじめて組合員の総合福祉条件の向上がはかられるという立場から、ローコスト経営の継続は不可欠として企業の経営基盤の確立を最優先するとしています。
労資の共通認識は、「企業の存続と雇用の確保」としています。
要するに、企業が二一世紀も永遠にいきのこるために、また投資家(株主)をもうけさすためには、いかに他企業・他店との競争に勝ちぬき、お客様(消費者)を獲得し、消費意欲をかきたてて商品を買わすかであり、そのためには身も心もよろこんで企業にささげる安上がりの労働者をいかにおおくつくるかということが企業の存続だといっているのだと思います。