『労働通信』2001年9月号

 資本主義のグローバル化や規制緩和、小泉内閣の「構造改革」は、すべての「痛み」を労働者や民衆に一方的に負わせようとしている。その背景には、政府や財界が、これまでの政策では資本主義の客観的な「変化」に対応できないため、労働者を犠牲にしながらこの「変化」への対応をはかろうとしていることがある。
 わたしたちがこの攻撃とたたかっていくうえでは、背景にある資本主義の「変化」について把握することがもとめられている。
 今回の特集では、おもに労働現場や企業をとりまく環境がどう変化しているのかをつかむことから出発して、グローバル化、規制緩和、「構造改革」にたいする対抗戦略を考えていく第一歩としたい。


「株主重視」の経営とIT化による労働の質の変化

 昨年一年間の自殺者は三万一九五七人で、三年連続で三万人をこえた(警察庁発表)。遺書をのこした人人のなかで、「経済・生活問題」を自殺の動機としている人は三〇・二%と、「健康問題」(四一・一%)についで第二位となっている。『労働通信』ホームページの掲示板『労働運動・労働問題ネット討論会』でも、さいきん、労働者の自殺にかんする書きこみがあいついでいる。 

 それは、グローバル化やIT化がすすむなかで、労働者とその家族の生活を破壊し、将来を悲観させるような「変化」「改革」がすすめられていることをしめしている。

株主利益重視の経営

 いま、労働者の労働や生活、企業のあり方が大きく変えられている背景の一つは、資本のグローバル化にともなって「株主利益重視」の経営への転換がすすんでいることである。

 じゅうらい日本の企業は、三井、三菱、住友などの六大企業集団に所属する企業が相互に株を持ちあうかたちをとってきた。だが、資本の国際化がすすみ、アメリカなどから日本企業の「閉鎖性」が非難され、「国際会計基準」が導入されるなかで、九〇年代以降、日本においても株の持ちあいの解消が急速にすすんでいる。その一方で、外国資本の日本市場への参入が急速にすすみ、外国人持ち株比率は国内企業同士の株の持ちあい比率を上まわっている(一ページのグラフ参照。ただし、ここでいう外国人持ち株のなかには日本企業の海外子会社によるものもふくまれる可能性がある)。

 重要なことは、こうした外国の機関投資家は、じゅうらいの日本の株主とちがって、企業の経営陣にたいして、経営戦略や利益の確保にたいしてひじょうにきびしい要求をすることである。日本の企業の株主総会は、総会屋が議事を混乱させる場合をのぞいては、ほとんどが「シャンシャン大会」でおわるのが普通であった。だが、九三年にアメリカのカルパース(公的年金基金)が、みずから株をもつ日本企業約二〇〇社の株主総会で経営陣が提出した議案に反対投票を投じたように、企業の経営にたいして積極的に介入する姿勢がつよまっている。
 これにともなって日本の機関投資家の姿勢もかわりつつある。大規模な機関投資家の一つである厚生年金基金連合会も、九九年の年金資産運用の基本方針として、「もっぱら投資家たる連合会の利益増大のために株主議決権を行使する」との方針をうちだした。

 資本の相互乗り入れや世界市場の一体化がすすむなかで、企業間競争は国際的な規模ではげしくなっている。このなかで、企業がいきのこり、投資家のために利益をあげることができなければ、経営陣はきびしく責任を問われ、解任されることもめずらしくない状況となっている。

 そのため、企業の経営体制そのものも、投資家の意向にそったかたちへと再編されている。九七年にソニーが執行役員制を導入するなど、取締役会と経営陣を分離し、取締役会が株主を代表して経営陣を監視する体制を導入する企業がふえている。そして、経営陣が、株主や投資家にたいして、経営戦略や経営目標などを明確にして情報発信するIR(インベスター・リレーションズ)活動が活発化している。
 そこでは株主利益をはかるために、いっそう過酷なリストラ「合理化」を強行することをちかうものとなっている。

ITによる「雇用削減効果」

 「株主利益」重視の経営戦略の一環としてうちだされているあらたな経営戦略は、じゅうらい型の製造業においては国内の工場を閉鎖して、より賃金の安い海外へと生産拠点をシフトするとともに、IT(情報技術)をつかったより「効率性」の高い経営戦略の展開をうちだしている。それは、労働者の地位に大きな変化をもたらしている。

 企業でのITの活用は、生産部門のFA(工場自動化)からはじまって、事務部門へとすすみ、こんにちでは企業や国の壁をこえたネットワークをかたちづくる段階へときている。

 それが労働者や企業にあたえている影響はまず第一に、徹底した省力化、人員削減と雇用の不安定化である。

 厚生労働省が発表した『二〇〇一年労働経済白書』によると、九〇〜九九年のIT化による雇用への影響の推計では、労働生産性の向上で約二六〇万人の雇用が減少した反面、低価格・新製品の需要増にともなう雇用が約五〇〇万人うみだされ、さしひき約二四〇万人の雇用創出効果があったとしている。だが、日本労働研究機構の調査では、「まだITへの代替等がすすんでいない」とする企業(二三・二%)でも、「今後は雇用削減効果がでてくる」と答えている企業が六割以上をしめている(三ページのグラフ参照)。

 また、『白書』で報告されている雇用増のうちわけをみると、パートやアルバイトなど非正規雇用がふえていることが推察される。『白書』は、「情報化がすすんでいる企業ほど情報化を非正規雇用の活用理由にあげる割合が高く、また、今後情報化によってパート・アルバイトの比率が高まるとする企業が三五%、派遣労働者の比率が高まるとする企業が三五%におよんでおり、情報通信技術革新は、仕事を標準化すること等により、非正規雇用活用を促進する一因となっている」と分析している。これらの労働者は、継続して仕事につける保障はなく、企業のつごうでいつでもクビをきられ、社会保険にも加入できない不安定な地位におかれている。さいきんでは、企業と雇用契約をむすばず、請負契約で自宅で仕事をするSOHOワーカー(在宅労働者)が、出版印刷、情報サービス、専門サービス分野だけで一七万四〇〇〇人と推計されている。だが、仕事の確保や不安定な収入に困っている人もおおく、報酬の支払いなどのトラブルを経験した人は二割におよんでいる。

労働の質が変化

 第二は、労働の質が大きく変化していることである。それは、IT化の進展によって定型的な業務については大幅に省力化、標準化することができるようになる一方で、現場の労働者や責任者であっても、必要な情報を検索、収集し、整理したうえで、あらたな仕事の計画をみずから企画・立案し、実行し、着実に成果をあげていくような仕事や、「創意工夫」「個人の仕事の裁量性」を必要とする仕事がふえていることである。また、ITの導入の拡大によりシステムエンジニアやプログラマーなど、高度な知識や技能を必要とする技術者の需要も高まっている(五ページのグラフ参照)。

 定型的な業務については、正社員ではなく、パートやアルバイト、臨時労働者でまかなったり、下請化・外注化する傾向がますますつよまっている。

 また、企画・立案・実行し、成果をあげることがもとめられる基幹的な分野では、成果実績主義による人事処遇制度がひろがっている。さらに専門技術職のなかでは、派遣労働の活用もひろがっていることは先にのべたとおりである。

 このなかで労働者はつねに成果実績をもとめられ、労働者同士がきそいあわされ、「勝者」と「敗者」に二極分化しつつある。しかもきょうの「勝者」があすも「勝者」であるとはかぎらない。

 今年一月に放映されたNHKの『クローズアップ現代』という番組では、ある輸入商社で、台湾からパソコンの部品を輸入して国内の企業にうりさばくプロジェクトのリーダーが年末に五〇〇〇万円のボーナスをもらったことが報道されていた。ところがこのリーダーは、プロジェクトが黒字をだすまでの過去六年間、ずっとボーナスはゼロで、自宅も2DKのアパート住まいのままである。今回、五〇〇〇万円のボーナスをもらって、家でも購入したのかと思ったら、六万円の洗濯機を買っただけで、あとは全部貯金したという。この人はインタビューで、「会社にもたよれない、社会にもたよれない、結局、自分しかたよれない」とのべて、浮き沈みのはげしい競争社会のなかで、将来のために蓄えておこうと考えた理由を語っていた。

組織のフラット化

 第三は、企業の中間管理機構や間接部門が縮小され、経営トップと現場が直結する企業組織の「フラット化」がすすみつつあることである。『労働経済白書』では、企業内でもっとも人員が減少している部門は、人事・労務、経理・財務、総務・広報・秘書などの間接部門であることを指摘している。それは、工場部門にくらべておくれていた間接部門の「ホワイトカラー」のIT化、すなわち業務の定型化、省力化が急速にすすみはじめたことをしめすものである。

 他方、『労働経済白書』は、「IT化によって中ぬきがすすむ」といわれていた中間管理職については、三年前にくらべて「減少した」とする企業と、「増加した」とする企業がほぼ同数であり、雇用削減効果がおおいのは中間管理職(一七・二%)よりもむしろ一般職(六二・五%)だとしている。そのかわり、中間管理職には「情報の重要性の判断」や「新規事業や業務改善の企画」などより高度な役割がもとめられるようになったとしている。ぎゃくにいえば、そうした役割がはたせない中間管理職にはリストラの運命がせまっていることを意味している。

逆V字型の経済変動

 第四は、IT化が資本主義経済のいちだんの不安定化をうながすことである。IT化の進展によって、原材料や部品の供給業者からメーカー、物流業者、卸・小売業者などの業者間で情報を共有するサプライチェーンマネージメント(SCM)という経営手法が登場してきている。それはITを駆使して、これらの業者間で情報を共有し、生産・供給・財務・人員配置などを日報体制で把握し、市場の末端の刻刻とした変化にあわせて、生産計画を変更し、生産時間の短縮や在庫の圧縮、欠品の解消などをはかろうとするものである。大企業はこれをさらに国際的にひろげて、部品や資材の調達などをインターネットでおこない、必要とされる部品を必要な数だけ、もっとも安く用意できる企業であれば、世界のどこからでも調達する体制をつくっている。このなかで、じゅうらい「企業城下町」で系列のメーカーに部品や資材などを供給してきた下請メーカーはいやおうなく国際的な価格競争にひきずりこまれることになる。しかも、突然の大量発注にもこたえられるようかえって大量の在庫をかかえこまざるをえないという負担さえ負わされるようになっている。そして、昨年から今年にかけてアメリカのネットバブルの崩壊で、半導体や電機産業などが史上最高の好況から一気に不況に転落したように、急激な逆V字型の変動をひきおこすなど、経済の不安定化をうながしている。それは、労働者のたえまない解雇やレイオフとなってあらわれ、労働者の生活をいっそう不安定なものにしている。

 SCMは原材料・部品の供給から最終消費市場までを計画的に統合し、一見「合理的」なシステムだが、資本主義の利潤追求につかわれるかぎり、いっそうの経済的混乱をうながす要素とならざるをえない。

変化に着目して

 このような変化のなかで、労働者の意識も変化している。たとえば、成果実績主義の賃金体系を約七割の労働者が支持しているといわれている。これもIT化にともなう労働の質の変化を基盤にしていると思われる。成果実績主義は、年功序列型賃金によってふくれあがる賃金原資の削減、労働者全体への賃下げをねらったものであると同時に、労働者同士を分断するものである。それは、労働者の意識のなかでは個人主義を助長せざるをえない。

 だが、反面では年功序列型賃金によってもたらされた企業=資本への帰属意識、従属意識を解体し、労働者一人一人が自分の頭でものを考えていかざるをえない状況をつくりだしつつある。

 こうした変化に着目して、労働運動の再構築をはかるための戦略、戦術をあみだしていく必要があるのではないだろうか。

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