『労働通信』2001年9月号


「小泉改革」のもとで求められる

労働運動の新たな課題の提起

 小泉内閣が登場していらい、つねに「構造改革」がさけばれ、これに反対するものはまるで「国賊」であるかのような風潮さえまんえんしている。そして「改革」さえさけべば中身はなくともまるで「進歩派」きどりで街を肩で風をきって歩ける状態だ。

日本資本主義の曲がり角

 なぜこの時期に「改革」が大きな課題になっているのだろうか?

 戦後、日本の資本主義は、アメリカの庇護のもとで成長してきた。そして「高度経済成長」期には日本資本主義の「絶頂期」をむかえた。その後、オイルショックやたびかさなる経済恐慌があったが、いろいろな手をつかいながらのりこえてきた。しかし、今回のバブル経済崩壊後の「平成大不況」は、いままでのような経済不況とくらべ質量ともにはるかに深刻な事態になっている。

 戦後の日本資本主義は、社会主義の福祉政策や社会保障制度をも部分的にとりいれつつ、一方で公共投資を中心に人為的に市場をうみだす方法をとってきた。そしてこれらの財源に、厚生年金や郵便貯金の資金を「財政投融資」をとおしてあてながら、建設業を中心に「族議員」と省庁の官僚をはびこらせ、許認可業務をたてに利権をむさぼる構造をつくりだしてきた。俗に人民大衆からは「お役所仕事」などとよばれ、その非効率性は悪名が高い。そしてバブル経済の崩壊後、政治機構の問題や経済機構の諸問題がいっきょにふきだしてきた。支配階級としても、いままでのやりかたではやっていけなくなり、「構造改革」がせまられるようになってきたのである。

 「構造改革」自体は、べつにめあたらしい問題ではない。橋本内閣いらいバブル経済崩壊後の日本経済をどうたてなおすかが課題になってきた。しかし、橋本内閣、小渕内閣、森内閣など歴代の内閣は、長年の利権構造にそまってきた結果、この問題を根本的に追求することはできなかった。今回登場した小泉内閣は、「自民党をつぶしてでも構造改革は推進する」と絶叫している。それは、ぬきさしならない危機に直面している独占資本と自民党のこんにちの姿をあらわしている。

小泉内閣の構造改革の内容

 だが、小泉内閣のとなえる「構造改革」は、労働者や勤労人民を犠牲にして日本資本主義の「改革」をはかろうとするものである。その目玉はつぎのとおりである。

1 不良債権の処理

 これは、緊急の課題である。現在、処理しなければならない不良債権は一二兆円といわれている。しかも不良債権は減るどころかふえる一方である。この処理をするからといってべつに主要な銀行が倒産することはない。不良債権の処理は銀行をたすけ、銀行のランクづけを上昇させようというものであり、銀行から資金を借りている中小零細企業をのきなみ倒産に追いこむことである。また銀行の統合をすすめ、銀行自体のリストラと人員削減をすすめることが目的である。

2 特殊法人の廃止

 これまでは、道路公団、住宅金融公庫など、国家が公共事業を特殊法人を通じて実行してきた。しかし右肩あがりの成長がやみ、公共投資が経済を主導する時代でなくなったいま、これらの民営化や廃止がさけばれるようになってきている。また「民間活力」を利用して、いままで特殊法人がになってきた領域を「市場原理」にゆだねようとしている。

3 郵政事業の民営化

 郵政事業は、明治維新後、日本資本主義の発展と歩調をあわせて拡大してきた。郵政事業は鉄道事業とおなじように、個個の資本家ではにないきれない全国の通信手段を国家が運営するという国営企業であった。また全国にはりめぐらされた郵便局網をつかって、貯金、保険などで人民の零細な資金をかきあつめ、「財政投融資」で特殊法人に環流し、資本主義の発展に寄与してきた。

 しかし物流の発展や宅配便の進出で郵便の役割はみなおしをせまられている。郵便事業は、民間にゆだね「市場万能主義」で運用し、競争原理をはたらかせ、総合物流企業に転換しようとしている。郵便貯金は、一定の制限のもと銀行と競争させる方向である。特殊法人の解体で財政投融資は廃止となり、保険は民営化されようとしている。

4 社会保障制度の縮小

 不良債権の処理によって、大量の失業が出ることが予想されるので、雇用保険についてはある程度の拡充が議論されている。

 年金制度、医療保険制度は、少子高齢化を理由に改悪されている。厚生年金と国民年金の完全統合も考えられる。年金の保険料をかける期間が現在の二〇歳〜六〇歳を二五歳〜六五歳にくりのべられようとしている(支給開始年齢が六五歳にくりのべられるので)。老人保険、退職者保険においても利用者の負担額が増加する。

来年度予算めぐり攻防

 小泉内閣のこれらの政策の具体的内容は、八月一〇日の朝刊に発表された二〇〇二年度予算の概算要求基準に端的にあらわれている。公共投資は二〇〇一年度予算より一〇%削減の九兆四〇〇〇億円。社会保障費はほんらい一兆円の増加がみこまれるのに七〇〇〇億円に圧縮である。ODA関係も一〇%圧縮だが、さっそく異論がでている。

 反面、IT関連、環境対策、科学技術の振興には「構造改革特別要求」と称して七五〇〇億円の上積みとなっている。また予算編成を内閣中心で編成していく体制に変更している。

 この概算要求とともに、特殊法人の民営化・廃止がもちあがっている。「見直し案」では日本私立学校振興・共済事業団、日本道路公団、住宅金融公庫、都市基盤整備公団、商工組合中央金庫などが対象となっている。ただ、これらの特殊法人を管轄する省庁の見解はすべて「廃止・民営化反対」の態度である。

労働者の生活を直撃

 いずれにせよ、小泉内閣のすすめる「構造改革」は広範囲にわたっており、それは労働者の生活を直撃するものとなる。

 参議院選挙も終了し、これから小泉内閣の「構造改革」がもっと具体的な姿でうかびあがってくる。日常的にマスコミなどをつうじて流される「構造改革」の内容について討議し、情勢問題をしっかりと把握しておくことがたいせつとなる。

 「構造改革」は、抽象的、一般的に存在していない。「構造改革」の攻撃は、たとえば倒産、失業であったり、厚生年金保険料のひきあげ、健康保険の改悪、「市場万能主義」によるリストラ「合理化」と賃金のきりさげ、労働条件の低下などが現実に進行中である。これらの具体的事実と小泉「構造改革」の関連性を、マスコミなどを活用して学習をふかめ認識を高めていかなければならない。

労働運動の新たな課題の提起を

 小泉「構造改革」につらぬかれている精神は、「市場万能主義」であり、すべてを市場原理にゆだねれば、万事がうまくいくという考えである。これに対抗する方法としてわれわれが参考となるのは、ヨーロッパの労働運動である。

 ヨーロッパの労働運動は、もとより社会主義をめざすものではない、改良主義の枠内にある。しかしここには伝統的に企業の枠をこえて資本に対抗するという方向性がある。

 たとえば、ヨーロッパ諸国ではEU指令によって、工場閉鎖のさいには労使協議が義務づけられている。日産のように突然「工場閉鎖・解雇」のようなことはできない。フランスなどでは、週三五時間労働制の導入と「ワークシェアリング」で失業率の低下を実現している。

 このような施策を実行させることができるのは、やはり強固な労働組合と統一した大衆行動が存在しているからだ。イギリスの郵便配達労働組合やフランスの国鉄労働組合のように「民営化」攻撃にたいしては、政府が保守党だろうが労働党・社会党だろうが断固としてストライキで対抗する力量をそなえている。

 日本の労働運動、労組運動でいえば、「構造改革」を企業収益の増加でのりきろうとしたり、全逓労組のように「労働条件の再構築は、公社になってから考えればいい」などと無責任な発言をする幹部が労働組合の指導権をにぎっている状況では、政府と資本のいうままである。

 労働者や労働組合の側から、大きな展望としては社会主義の実現を念頭におきながら、いま労働者をひきつけられるような具体的な制度・政策闘争(解雇規制法や労働時間短縮など)を提起していくことがもとめられている。また、IT化によってひきおこされている雇用形態や賃金体系、労働の質の変化、そこからうまれている労働者の意識の変化に着目し、あたらしい状況のもとでの労働者の要求を整理し、それにみあった運動の形態も模索していく必要がある。これらの課題については、ひきつづき読者のみなさんとともに検討していきたい。

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