『労働通信』2001年11月号
小泉さんは「国債発行を三〇兆円以内におさえる」と公約して首相になってしまった。そんなことがどうしてできるのだろうと、関係者はじめ、そこらへんのおばちゃん達も心配(?)していた。
そしたらさいきん小泉さんは政府・与野党連絡会議で、「さいしょから三〇兆円ときめるのではなく、雇用対策などをしっかりやりながら、状況に応じてだいたんかつ柔軟に対応していく」と、こだわりのない、こんにゃくのような姿勢をさらけたのであった。
「米国同時テロ事件」のどさくさにまぎれて、公約をくず箱に放ってしまった。財政再建の先延ばしも、「ビンラデン氏がわるい」などとよけいなことまで理由にしている。舌をぬいてやりたい。
もっとも、この日本では国債にたよるしかないのである。独占資本は国中の消費者から消費力を奪いきってしまった。国はとるものもとれず、価値のない紙幣を三十数兆円分印刷してうめあわせる「インフレ政策」をやるしかない。自民党や独占資本の一部では「そんなことをせずになんとかならないか」と思案する者もいるが、大筋では国債の大量発行にたよって景気を回復してのち「構造改革」をすすめるようである。そのやりかたは「調整インフレ」である。
「調整インフレ」とは、ほんらいなら景気過熱の結果としておきる物価上昇を、金融政策で人為的につくりだそうとする政策である。ものが売れない→物価も賃金もさがり雇用が減る→さらにものが売れない……という「デフレの悪循環」からぬけだし、景気回復に転じるきっかけになるという考え方である。
つまり、「インフレになるぞ」と考えたら、人人は値あがり前にものを買おうとするし(そんな余裕もすでにないが)、企業も設備投資や原材料の購入をいそぐだろう。需要が高まるので、景気が回復する……。地価もあがれば不良債権処理にもはずみがつくかもしれないという皮算用である。
また、インフレが予想されると需要が拡大するのは、「金利が実質的にかるくなった」と感じられるからでもある。金利の上昇よりも予想物価上昇率が高ければおカネの価値がさがり、このままおカネをもっていても相対的に損をするので人人の購買意欲が増し、資本は設備投資をすすめる。
借金をしているものはインフレになると得をする。借金の額面はかわらないし、企業はおなじ数だけ商品が売れれば物価があがったぶん売上がのびるから借金の実質的負担はかるくなって得をすることになる。個人の住宅ローンも基本的には事情はおなじだ。ローン返済の負担が減る一方、建物や土地の評価額があがる可能性がある。(ただしローンが変動金利になっている場合は要注意。また土地などの評価額があがると、そのぶん固定資産税は重くなる)
ところで日本中でいちばん借金をかかえているのはだれか。大量の国債(二〇〇一年度末で長期債務残高六六六兆円の見込み)を発行している政府であり、「不良債権」をかかえている銀行などの金融機関である。インフレがすすめばかれらが一番得をする。その一方で、庶民にとっては「目に見えない増税」となる。物価水準があがる分、もっている現金の価値は目減りしてしまうからである。カネに税金がかかるようなものである。労働者は、賃金があがるものの物価上昇分におよばず、実質的な賃下げになり、物価スライドしない年金生活者もインフレの犠牲者となる。結局、国や資本の借金がかるくなる分、人民が肩代わりする……意図的なインフレ政策にはこうした側面がかくされている。インフレ・デフレにかわりなくわれわれ庶民は、荒れ狂う経済のアラシに吹き飛ばされる。重い借金と一緒にふきとばされる。軽い紙幣とともに。