「勝ち組・負け組」の格差を拡大し少数の金持ちを優遇

改革工程表と先行プログラム

『労働通信』2001年11月号


 経済財政諮問会議(議長・小泉純一郎首相)は九月二一日、会合をひらき、改革の実施時期をしめす改革工程表のとりまとめと、そのうち優先的にとりくむ改革先行プログラムの中間報告(別掲)を了承した。先行プログラムには、金融庁による主要な銀行にたいする特別検査(検査の結果、破たんが懸念された企業を、@私的整理ガイドラインによる再建計画の策定、A民事再生法などによる会社再建、B整理回収機構〔RCC〕などへの債権売却など、三つの手法で再生・処理をおこなう)の実施や、RCCなどによる企業の再生のためのあらたな基金の設立など、「日本再生の第一歩」と位置づけた不良債権処理の促進策がもりこまれている。これらのことからいえるのは、「構造改革」のなかでかれらがもっとも重視している問題が不良債権処理問題であり、これを梃子(てこ)に銀行を救済してその再編をはかり、特殊法人を廃止・統合、民営化し、社会保障制度、医療制度などを根本的に変更しようとしていることである。

狙いは経済構造の改造

 不良債権処理とは、銀行の不良債権をRCCが大量に買いあげて一元的に処理するというものである。さまざまな手法をとっているがその内容は、銀行が債権を売りやすくするためにRCCが買いとり価格をひきあげ、RCCがその分の金額が回収できなければ税金で穴埋めをするということである。

 問題は、不良債権がなぜ生じるのかをはっきりさせることである。おおくの人人は、「バブルのときに銀行など金融機関が土地など不動産を買ってきたが、バブルがはじけて土地などが値さがりし、それがこげついてぼうだいな不良債権がつくられた」と思っていた。それも不良債権が生じた要因の一つであるが、それよりも深刻なことはこんにちの経済危機のもとで不良債権が不断に再生産されているということである。アメリカでのテロ事件翌日の九月一二日、東京株式市場では日経平均株価が一万円割れとなり、多額の株式を保有する大手銀行の九月期中間決算に深刻な影響をあたえている。大和総研によると、一二日の終値ベースで大手一三行の保有株式の含み損を推計すると約五兆二〇〇〇億円程度になるという。株安は、銀行に大きな負担となり、これも不良債権をつくりだすもととなる。

 それだけではない。企業倒産によるこげつきも銀行の不良債権となる。一例にすぎないがさいきん、大手スーパーのマイカルが、ぼうだいな負債(総額一兆七四二八億円)をかかえて倒産している。流通業では昨年七月に倒産したそごうグループ(負債総額約一兆八七〇〇億円)につぐ規模である。いま、全産業で倒産、工場閉鎖・企業の縮小、中小企業の倒産などが進行している。「構造改革」がすすめば、さらに倒産企業がうみだされることになる。

 四大金融グループでは、今期、みずほが八〇〇〇億円、三菱東京、三井住友がそれぞれ四〇〇〇億円、UFJが三〇〇〇億円の不良債権処理を計画している。だが、株の暴落によってこれまでのような株の含み益にたよった処理ができなくなっている。九月中間決算から義務づけられた有価証券の時価会計の導入もそれに追いうちをかけている。

 そもそも、日米の証券市場の構造には違いがある。現在、アメリカでは、株式所有者がいちじるしく増大し、個人投資家もおおいが、日本ではそうではない。ここに、日本資本主義の特殊性がある。株式所有の面からみたその特徴は、銀行、保険、証券など金融機関による機関投資が全体の四分の三を占めているが、個人投資家はわずか四分の一にすぎないという状況である。「構造改革」は、個人投資家が株式の大半をしめるようにすることもそのねらいの一つでもある。

 また、日本における株式所有の特徴は、グループ企業の相互持ち合いがおおいことである。これは、日本資本主義の発展過程に起因している。第二次世界大戦以前の日本資本主義は、民間独占が家族占有制を基礎にした財閥(三井、住友、三菱、鴻池など血族による財閥)によって運営されていた。この財閥本社の圧倒的多数の株式は、これらの大金持ちの所有にされ、資本の所有はひじょうに集中化されていた。しかし、戦後の日本資本主義は、アメリカ帝国主義によって家族占有制を基礎とした財閥型が解体されて近代的なコンツェルン型の資本主義にかえられた。だが、戦後の資本主義は、財閥型の残滓のうえに再建されたために、こんにちのような特殊な状態をつくりだした。

 小泉内閣が貯金にたいする低金利政策をとり、さらに「税制改革」をすすめ、保険法の改定をするなど人民のたくわえをはきださせる政策をうちだし、株式投資にカネが動くように金融政策をとろうとしているのも、個人投資家を増やそうとしているからである。

人民への犠牲の転嫁によって促進される「構造改革」

 「構造改革」のいま一つの問題は、「特殊法人の廃止、民営化」であり、社会保障制度の縮小である。これは、「構造改革」が銀行など独占資本を保護し、危機の犠牲を労働者、人民に転嫁するものであることをしめしている。

 「構造改革」は、肥大化した国家機構や、国家の経営する企業の整理・縮小をはかって国家財政の支出を減らすことをすすめながら、「不良債権処理」で銀行をはじめ金融機関の統合と再編、「特殊法人の廃止、民営化」で石油化学、建設、流通、交通運輸などの産業の縮小、再編を強行しようとしている。特徴的なことは、これが独占資本のすすめている自動車、鉄鋼、電機、造船重機、情報通信など全産業における産業再編とむすびついて進行していることである。

 こうしたなかで、みのがせないのが郵政事業の民営化がはやまるという問題である。さいきん、郵政事業庁は、海外むけの急送便や小包配送サービスでの競争力を高めるために、二〇〇三年の郵政公社化にあわせて海外企業と提携する方針をかためている。さらに公社化にともない郵便法などの改正で業務範囲が拡大することをうけて、具体的な提携案を決める方針などをうちだしている。これらのことは、民営化の先どりでもある。また、経済同友会は、二〇〇三年に予定されている郵政事業庁の「公社化計画」を白紙にもどし、完全民営化にむけてさいしょから株式会社として発足すべきだ、などの内容を政府に提言する方針をかためている。

 こうして、ぼうだいな失業者がつくりだされる。すでに、失業率は五%をこえている。「改革工程表」では、失業の増大による労働者の憤激を封じこめる手だてとして、失業手当の給付を二年間延長すること、森林作業員や警察支援要員、学校の教員補助者など公的部門への臨時雇用の創出などをうちだしている。

 しかし、それがきわめて欺まん的なものであることをみずからがばくろしている。さいきん、厚生労働省(労働政策審議会)は、労働者の解雇を容易にできる手つづきや要件を明確にする「解雇ルール」(@手つづき・要件の内容、A契約終了のさいにトラブルが発生した場合の迅速な解決方法)づくりを検討している。これは、日本の雇用慣行や労使関係の根本的なみなおしである。解雇については現在、労働者にとって不十分なものであるが解雇する場合、労働基準法では三〇日前に労働者に予告しなければならず、また、「社会通念上、そうとうとみとめられない場合は権利の乱用として無効」という最高裁の判例もあって事実上、解雇権はある程度制限されているが、「構造改革」はこれすらももぎとろうとしている。

 労働者、人民への犠牲の転嫁はそれだけではない。政府・厚生労働省は、医療制度改革試案――@高齢者医療制度の対象年齢を七〇歳から七五歳にひきあげる、A患者負担を二割から三割にひきあげる、B老人医療費の膨張を抑制する手法をもうける――をうちだすなど、医療制度破壊をたくらんでいる。また、六五歳以上の高齢者の介護保険料が、一〇月から全額徴収されることになる。これまで半額におさえられていたものが、いっきに二倍になる。こうした情け容赦のない人民収奪の強行が、小泉「構造改革」の本質であることをはっきりさせることはきわめて重要である。

 そのうえで資本、政府の思想攻撃とたたかうことが重要である。その一つは、「効率化」論にたいして毅然たる態度をとることである。いま、この問題をめぐって資本の側と労働組合の側が対立している。効率化は、資本主義社会のもとでは資本の側がいうような「生産の発展、生産の拡大」だけをもたらすものではなく、それは「勝ち組と負け組」をつくりだし、貧富の差のいっそうの拡大を促進する。労働者階級は、この点をあきらかにし資本主義の本質をあばき、「構造改革」の実行が少数の金持ちをうるおし、圧倒的多数の貧困人民を生みだすものであることをはっきりさせる必要がある。

改革先行プログラム(中間報告)

@ 不良債権処理。株価や格付けなどが悪化した企業について主要銀行の自己査定が適性かどうかの特別検査を実施し、はやめの引当をうながす。さらに不良債権の処理と企業再建を平行してすすめるため、RCCが銀行から不良債権を買いとるさいの価格をひきあげられるようにし、二〇〇三年までに不良債権の買いとりを集中的に実施する。

A 雇用・中小企業対策。失業の増加が予想されるこんご二〜三年間の臨時措置として、学校の教員補助者や警察支援要員、森林作業員など公的部門での臨時雇用を実施する。職業訓練をうけている場合は、失業給付期間を延長する制度を拡充するほか、雇用保険にはいっていない自営業者などが失業した場合、生活資金を貸付ける制度などをつくる。失業で住宅ローンの返済が困難になった人を対象に元金据置期間を延長するなど対策をとる。

B 経済の活性化。証券市場の活性化策として、これまでの貯蓄優遇から投資優遇へと金融のあり方をきりかえ、証券税制について対応する。特殊法人「改革」については、道路四公団、都市基盤整備公団、住宅金融公庫、石油公団の廃止や分割・民営化については他の法人にさきがけて結論をだし、閣議決定する。福祉・保育では、民間活力を活用し、公設民営型の保育所を緊急に整備し、保育所などへの児童の受入数を二〇〇四年度までに一五万人増やす――など。大学・学部の統廃合と国立大学の独立行政法人化。

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