最後の国内工場閉鎖・首切りに反対する闘争をたたかって見えてきたもの

民間企業労働者
伊藤 公子

『労働通信』2002年7月号

T グローバル化によるリストラ「合理化」

 今年の三月期決算を前にしてA社は、外資のB社が資本参加と役員派遣をすることで筆頭株主となり、実質的にB社の傘下に組することになるということを公表した。 

 A社は、過去中国に生産拠点を次次と移し、一七工場を生産委託するまでになっていた。今回の「合理化」では、国内に唯一残されていた工場をB社の拠点のある海外へ生産移管することにより、生産部門はすべて中国に移り、国内にはおもに販路を残すだけのものとなる。

 労組執行部は、生産部門の海外移転による工場労働者の強制退職と、その他の全部門での四〇歳以上の「希望退職」の募集により、一五〇名に及ぶ首切り「合理化」計画を全面的に受け入れた。そのための臨時大会を五月に開き、強引に執行部案を押しつけた。

 「合理化」を推進する執行部の基本的見解は「会社を存続させることを前提にし交渉をすすめてきた」、「会社が生き残りをかけた選択として、外資との提携」があり、「八年間にわたり金融機関にたいし五億の約定返済が発生するなか提携による資金捻出以外に退職金資金がないという状況の交渉となり、退職金・賃金カットなど組合方針からひきさがった内容での合意」として、資本に全面屈服しての「合理化」である。この「合理化」をすすめるにあたっては、「合併が失敗すれば会社は倒産し会社更生法の申請となる」「情報を漏らしたら解雇する」などの脅しによって組合員のたたかう意思を抑圧し、産別組織の支援も拒絶しての「合理化」の推進であった。

 退職金の支払いは、退職時五二%プラス年休の買い上げ、二年目、三年目は二四%の分割である。賃金カットは、年齢傾斜区分で五%から二〇%で、平均が一一・七%、その他諸手当一〇%カット、「合理化」以降の退職金カットは、一五%、夏期一時金については、資金の裏付けがなく四月〜七月の業績で資金を捻出し七月に再交渉する、など労働者を愚弄(ぐろう)するものである。

U 今回の「合理化」の背景

 この業界では、早くから慢性的な過剰生産となり、さらに経済のグローバル化のもとで国内生産縮小・海外生産拡大によるコスト削減で、内外にわたる労働者の搾取の強化によって利潤を追求してきた。またリストラによるあいつぐ分社化や機構の再編、賃金・退職金の切り下げ、人減らしなどによって、有能な人材が流出し、他方で過剰な管理職がうまれ、その過程で「人災」といわれる経営悪化を繰り返している。

 A社は、中国の主要都市の百貨店に売り場を持って高単価な自社商品を販売しているB社との今回の資本提携によって、さらにアジアにおける市場戦略をめざすとして、ますますグローバル経済の渦中にはまり、資本間競争に拍車をかけるものとなっている。A社にとっては、海外の安い労働力と資源を求める経済侵略を際限なくおしすすめるものである。A社とB社との業務提携は、当然のごとく今日の過剰生産恐慌による経営危機に直面しての金融主導によるものである。それはまた、政府・財界による過剰債務・過剰雇用・過剰設備の切り捨て政策の具体化である。

V 労働運動のあらたな経験

@深刻化する生活実態

 労資結託による「合理化」案の基本的な合意をみた上で、社長は「合理化」計画の説明のために工場の労働者の全員集会にあらわれた。工場労働者は、かつて経験したことのない切実な事態に直面していることから「解雇されたら私たちは生活ができない」、「生産部門は黒字であるのになぜ工場の海外移転をするのか」、「私たちは生産を続けたいので工場を残せ」、「二年前にも経営危機の再建のためといって大リストラをしておきながらなぜまた経営危機になったのかその根拠を明かにせよ」など鋭く追及する場となった。こうした事態を招いた経営責任を追及する労働者は「社長は土下座して謝れ」との怒りに震えて糾弾した。そして、社長が両手をついて土下座するという事態がおこった。

 どの家庭においても家族ぐるみで今回のリストラ問題が深刻に話し合われ、かなりの家庭が住宅ローンや子供の教育費で深刻に悩んでいる。工場閉鎖で強制退職の者は、大幅な減収になっても残留希望をするかどうか、また社員として残留しても今後退職金が出るかどうかは先行き不透明で賭けを強いられるようなものである。婦人労働者の残留はパートしかないが、大幅な減収となれない複雑な販売部門の仕事ができるかどうか大きい不安を抱えてのことである。希望退職に応じるかどうか、退職すれば次の再就職はきわめて困難である。

 各人各家庭にそれぞれの実情によって深刻な選択が迫られている。ここには、単に自分の職場だけではなく、最近自殺者さえだしている地域のリストラ攻撃が職場や家庭に深刻に影響し、また同業他社の大型倒産のようなリストラ経験も影響しあって、社会全体の経済危機や失業の増大する社会の現状を深刻に反映している実態が浮きぼりとなった。

A婦人差別への怒り強まる

 ここに働く婦人労働者には、生産活動の主要な担い手であることを誇りに生きてきた歴史がある。ところが今回の「合理化」によって国内に唯一残っていた工場の撤退、海外への生産移管で生産活動に終止符が打たれることになる。おおくの婦人労働者は、学校を出て工場労働一筋に生きてきた苦労とともに、生産活動の担い手としての自負を奪われることにやりきれない思いと激しい怒りを募らせている。婦人労働者は、社長の「合理化」案の説明に、「仕事を続けたいので工場を残してほしい」と訴えた。また労組執行部が組合員の心情を理解せず、資本の手先として組合員の利益とたたかいたいという願いを裏切ったことに激しい怒りをつきつけて、支部の婦人部集会で「委員長の辞任」を決議した。

 これまでは、「会社あっての労働者」という労働貴族のふりまくイデオロギーに反発しながらも、労働組合の結成時の働くものの団結とたたかう意識がいつのまにか曇らされてきていた。しかし、このたびの「合理化」による生産からの撤退、強制退職という事態に直面して、「一人は万人のために、万人は一人のために」という労働者のなかに本質的に兼ね備えている意識がよみがえり、資本とたたかうしか道が残されていないことが鮮明になった。いまの状況をだれもが家族や友達にも話し、資本の仕打ちをぶちまけている。
 婦人労働者は、社員としての残留の道が閉ざされ、なれない販路の部門で、しかもパートしか残されていない。通勤費が半額となるために遠くのものはやむなく退職せざるをえない。これはコスト削減のためである。それにひきかえ男性労働者の一部は社員としての残留となっている。「残すなら男女を平等に扱え、婦人差別は許せない」との怒りがつのる。パートでも「残ったからには頑張るでっ」と自分の今後の生き方をはっきりさせてやるしかないと決意している。今回の「合理化」攻撃の深刻な経験から「勉強をしないとごまかされる」という意識が広がっている。これからまったくあたらしい職場で働くことにそなえて学習会を開いて学びあい教えあって団結して今後の労働と新しい組合運動の構築をめざしていき、そのためには同業他社の先進的労組のようにパートの組合員化を絶対に実現していくことが話し合われている。
 またやむなく他の仕事へ転職するものは、失業保険をとりながら仕事を覚えて、今回の経験を新天地で生かしていこうと決意している。だれもが「去るも残るも地獄」を見る思いである。
 管理職は、「退職願い」を手渡すときに、本来なら長年の苦労をねぎらう言葉の一つもかけて手渡すのが礼儀というものであるが、チラシを配るような無礼な態度をとっている。これにたいして、婦人労働者たちは「わたしらはなにも退職をお願いするのではないぞ」と、婦人蔑視への怒りをつのらせている。

B資本主義は労働者を養えない

 今回の「合理化」では、賃金・退職金の大幅なひきさげとなった。これは二年前の「合理化」においても賃金・ボーナスの五%カットが強行された上でのことである。しかも今夏のボーナスは資金の出どころがないなどといって不安にさらしている。会社は、今回の「合理化」によって大幅減収になることから、社員のアルバイトを認めることにした。一部上場を誇った企業でさえ、もはやその企業が支払う賃金だけでは生活を保証することができなくなっている。「希望退職」者は、期限前に募集打ち切りとなった。おおくの労働者が企業の現状に失望し、有能な社員の退職が後をたたず、人材難による労務倒産にもなりかねない事態である。資本主義の危機はきわめて深刻な事態であり、もはや資本主義は労働者を養うことさえできなくなっていることをあからさまにしている。

C腐敗と無能をきわめる管理職と労働貴族

 会社は、バブル後の九二年ごろから人脈をもとに、あいつぐ分社化とリストラによって、企業の管理職の数がふくらみ、組織は逆ピラミッド形になって不必要な経費もかさみ、他方では企業の将来に希望が持てなくなって今回の希望退職の応募でもさらに優秀な労働者が企業を見放して退職している。経営陣の指導力は低下し、各部門の管理がおざなりになり、生産・販路行程の実態の把握もおろそかにし、ずさん経営も随所に見られる。今回の経営破たんについては、管理職の間からさえ「人災」とまで言われるありさまである。こうした過程で人材を育成して技術を継承するシステムも崩れている。

 また近年労資協調路線を進めてきた労組執行部は、「経営参加」を基本路線としてきたが、その実、企業が経営破たん状況に直面するまでになっても「経営の実態の把握と改善」を真剣に求めず、逆に労働者にたいして企業の犠牲を転嫁することだけは資本に忠実に果たすというものである。「経営参加」路線とは、企業への奴隷根性だけを注入する手口にすぎない。経営の実態を真に理解し、把握しているのは生産を担う現場労働者である。現場とかけ離れている管理職や労働貴族には無能者としかいいようのないことがあきらかになっている。

 また今回のかつてない「合理化」攻撃に直面して、組合員は産別労組や連合の果たす役割に強く期待していたが、そうした労組機能がまったく失われていることに裏切られた思いが強い。

D労働者の歴史的経験をよりどころに新しい労働運動を展望する

 組合員は七〇年代以降に、工場の海外移転がすすみ、今回の「合理化」攻撃によって最終的に工場が奪われるという事態に直面して、グローバル経済のもとで産業の空洞化と高失業時代を迎えていることから自分たちの職場と日本とアジア、さらに世界の情勢が緊密に結びついていることを深刻に経験している。組合員は、今日の情勢下で上部の裏切りにもめげず、足並みをそろえてたたかったという思いも持つようになっている。

 労働者の感性的認識はするどさを増している。労働者階級の歴史的経験をよりどころに、認識を高め、今日の日本と世界の資本主義の仕組み、到達段階、今後の展望などを総括して、あたらしい労働運動をどう打ち立てていくかをあきらかにしていくことが強くもとめられている。

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