労働通信02年7月号
「政府首脳」(のちに福田官房長官であることがあきらかになる)は五月三一日、核兵器の保持などを禁ずる「非核三原則」について「国際情勢が変化したり国民世論が核を持つべきだとなれば、変わることもあるかもしれない」と述べ、みなおす可能性を示唆した。
野党の攻撃をうけて政府はあわてて、「非核三原則を堅持する考えにかわりはない」と弁明にこれつとめているが、実際には「非核三原則」みなおしは日本の支配階級のある部分の正直な思いであり、また現在おしすすめられている政策の延長線上にある。それは、小泉内閣による有事法整備や個人情報保護法案をはじめとするメディア規制法案などの反動法案と一体のものとしてでてきた発言である。
有事法制の本質が労働者・勤労者の利益に反するものであり、侵略戦争への道を歩むものであることは、本誌三月号でも掲載した。もう一度その論点を整理しておこう。
日本が経済危機を乗り切るためにはあらたな市場の開拓が不可欠であり、国内市場にのぞみを持てないいま、国外の市場獲得を急がなければならない。また、安価な労働力をもとめ海外に進出した多国籍企業の安定した利益確保も重要になる。そのためには日本にとってつごうのよい政策をとる国、日本のいうことをすなおに聞く国をつくることが重要になってくる。その手段の一つとして武力を背景とした圧力を有効にしようとしている。
もう一つは、アメリカの世界戦略の一環としての日本の位置づけである。日本の支配層は日米安保体制のいっそうの強化をおこない、アメリカと一体となり、アメリカの戦争に荷担し、そのおこぼれをちょうだいしようとしている。一方、アメリカも日本をアメリカの軍事システムの一部としてとりいれ、アジアでの利権を確保するための道具にしようと躍起(やっき)になっている。
この法案は、日本が攻撃をうけた場合だけでなく、攻撃してくると予測された時点で、有事体制が発動できることになっている。それではこの「予測事態」はどのような情報により判断されるのか。他国の軍事情報は、外務省は在外公館から、国土交通省は海上保安庁から、国家公安委員会は警察組織から、内閣官房は内閣情報調査室から報告されるが、もっとも有力で重要視されるのは自衛隊の持つ軍事情報である。しかし、自衛隊の情報は、新ガイドラインにより米軍と共有され分析されることとなっている。現実には、情報収集能力はアメリカのほうが圧倒的に優位であることから、アメリカの情報操作により「予測事態」の判断材料をどうにでも操作できてしまうのである。
たとえば中国・台湾や朝鮮半島などアジア諸地域で緊張が高まり、日本がまきこまれるかもしれないとアメリカが一方的に判断した時点で日本の有事体制が発動されることとなるのである。
あるいはまた、さきのアメリカによるアフガニスタンへの「報復戦争」に日本の自衛艦がインド洋上で米軍艦に燃料補給をおこなったように、こんごアメリカが世界中でひきおこす戦争にかんしても、日本にたいする「武力攻撃が予測される事態」「おそれがある事態」へと拡大解釈され、米軍との共同の軍事行動に動員される可能性も十分にあるといえる。
いったん有事体制が発動されると国民はいやおうなしに戦争への協力を強制され、協力を阻むものには懲役が科せられることも有事法制の問題点である。国民は戦争に協力するか、さもなくば逮捕投獄されるかの選択しかないのである。
また、個人情報保護法案をはじめとするメディア三法案が、言論の自由を奪い民主的な活動を阻害するものであることは五月八日発表の「労働通信」編集委員会声明(今号に掲載)のとおりである。すでに私たちの足もとでは周辺事態法を中心とする新ガイドライン関連法をはじめ、国旗・国歌法、盗聴法、地方分権一括法など、戦争をおこなうのに必要な法整備が着着とすすんでいる。周辺事態法により国民総動員への足がかりをつくり、国旗・国歌法や教育基本法、また「つくる会」の歴史・公民教科書の承認により民族主義・排外主義をあおり、戦争を受け入れやすい国民精神の醸成をすすめようとしている。さらにかれらは、盗聴法などの組織的犯罪対策関連法によって労働運動や市民運動への弾圧をねらい、さらに地方分権一括法と地方自治法改悪により地方自治体の有事にたいする権限を弱め、反戦自治体を押さえ込み中央省庁による中央集権の強化をおこなおうとしている。支配層は平時における階級支配を強化するとともに戦争への土壌をつくり固めているのである。
今回の政府首脳・福田官房長官の発言はさらにこのことを裏付けるものである。かつて日本の侵略により苦しめられた中国や韓国、東南アジアとの友好を回復しようとしている現在、さらにはワールド・カップという国際親善行事の直前に、なぜこのような発言がでてきたのであろうか。格付け会社ムーディーズによる国債の大幅な格下げや日本経済の行き詰まりがどうにもならないという日本支配層のあせりからくるものとも考えられる。そうであれば、あきらかに日本の支配層は、最悪の経済状態を打開するために軍事力を背景とした政策を帝国主義延命の選択肢の一つとして模索している。
有事関連法案や「個人情報保護法案」などは、通常国会では成立が困難となったが、小泉政権は次期国会であくまでも成立をねらっている。秋の臨時国会へむけて、職場や地域からこれらの法案を廃案にするたたかいをつくりあげていこう。