『労働通信』2002年9月号
七月二三日、政府の総合規制改革会議は、「中間とりまとめ」を発表した。規制緩和を中心に経済政策を網羅したもので、小泉政権の新自由主義的構造改革の集大成といってもよいものである。一二月予定の答申にむけた暫定的なものとされ、また各省庁との対立が未調整な部分もあるが、すでに実行されたり、実行されつつある政策もおおくふくみ、「規制改革特区」など秋の臨時国会への上程が予定されているものもある。以下その内容を検討したい。
「中間とりまとめ」は、五章からなっている。
第一章「新しい事業の創出」は、投資家にとってより有利な環境づくりと新事業創出の条件整備、他方で、派遣・期間・裁量労働制など資本にとってつかいやすく労働者にとって不安定な労働形態を推進しようというものだ。うち新事業創出について、株式会社などへの最低資本金免除などの「新事業創出促進法」改定案が臨時国会に提出される。
第二章は、医療・福祉・教育・農業に株式会社を参入させ、また公的事業をも民間移行させようというものだ。
第三章は、通信・電力・ガスなどの競争拡大など。
第四章は、企業会計や大学などで、行政や第三者機関による「事後チェック」を整備し、事前規制緩和のテコにしようというものだ。臨時国会では、第三者機関による評価を私立大学に義務づける法案の提出も予定されている。
第五章は、「規制改革特区」である。
その特徴は、まず、いちじるしい寄生性と社会の総生産にたいする無責任性である。
この文書全体のテーマが「経済の活性化」とされているにもかかわらず、ここにはなんの産業分析もなく、それぞれの政策が産業全体におよぼす影響予測もそうした問題意識もなく、そのかわりに、株式会社の「効率的な経営」、株式会社こそ「より透明かつ健全な経営」をおこなっているなどの一般的かつ真偽のあやしい主張で埋められている。つまり、「中間とりまとめ」における政策選択の基準は、「投資家がもうかる経済は活性化する」との根拠のない信仰にすぎないのである。
こうした特徴は、戦後の日本でくりかえされてきた「産業構造転換政策」ともちがっている。この政策には、労働者を犠牲にしてではあるが、資本の立場からそれなりに産業を分析し生産活動を再組織しようという観点がまだしもあった。「中間とりまとめ」は、資本主義の腐朽性のいっそうの進展と、ブルジョア階級の生産を管理する意欲と能力の喪失をあらわしている。
また「中間とりまとめ」は、あらたな利権をうみだそうとしている。たとえば第二章では、公的事業のおおくを民間の利潤追求活動にゆだねるとしている。例示された事業は、救急、刑務所、証券の印刷、学校、上下水道、職業紹介・訓練、道路、港湾整備・運営、公園、公の施設の管理、各種行政手続きなど多岐にわたっている。民間への移行形態も、おおく設定されており、事業譲渡、国も株主とする株式会社、経営委託、業務委託、PFI(道路などを民間事業としてつくり、しばらく運営したのち行政が買いとる)など。このように多様な形態を準備することで、もうけになる部分だけを確実にきりとることができるのである。
じゅうらいの利権構造と、どこが違うのだろうか。じゅうらいは、たとえば公共事業の個個の工事などを企業に発注していたのにたいし、事業そのものを企業に丸投げするようになるというだけだ。行政と企業がゆ着し、公的事業を食い物にする構造は、かわらないどころか拡大さえするのである。国家財政と人人の税負担という点でも、なるほど行政の事業費そのものは減るが、民間への契約料などにかたちをかえるだけであり、また負担が大きく民間資本が手をださない事業ばかりが行政にのこされることになり、けっして改善はしない。
「規制改革特区(構造改革特区)」は、小泉政権の「経済活性化」策と構造改革の当面の目玉とされている。これは、自治体の立案と裁量により、ある分野の規制をとりはらった特別地区をもうけるものだ。小泉と総合規制改革会議は、これを全国的規制緩和のテコだとしている。
たとえば港湾特区。港湾ではこれまでも規制緩和による日雇い化がすすめられ、労働条件が劣悪化されていたが、これを一気におしすすめ、港湾事務の民間委託、労働時間延長による通関・検疫の二四時間・三六五日営業などを提言している。
また、平沼経産相によると、「農村ではブランド農業特区。…商社やバイオ企業が資本を入れて品種改良から生産販売まで手がける」、「人材ビジネス・雇用創出特区では、民間事業者が教育、カウンセリング、紹介、派遣、再就職支援など総合人材サービスを一カ所で提供する」 (朝日新聞のインタビュー)としており、また「とりまとめ」では、派遣事業の業種拡大、裁量労働制の業務拡大などをうたっている。
その他、IT、流通、教育、医療、都市再開発などの例が出されているが、これにとどまらず、「具体的なアイデアは…地方と民間の選択にゆだねる」としている。
すでに政府部内で「構造改革推進本部」がたちあげられ、八月三〇日までに自治体などから提案受付、九月上旬基本方針決定、一〇月上旬推進プログラム決定、とのスケジュールが設定されている。他方、小泉は特区のための包括法案を臨時国会に上程するとしている。
特区は、該当地区だけの問題ではない。全国化が予定されているだけではなく、地区をこえた影響をおよぼすからだ。たとえば、一地区での雇用条件の悪化は周辺地域さらに全国に波及せざるをえない。
特区のおおくは特定企業・業界団体の自治体への働きかけや自治体による誘致を通じて設定されるだろうこと、だからゆ着と利権を拡大することも目に見えている。政府は「補助金や税制優遇などはしない」といっているが、まだ流動的であるうえ、ぎまんでもある。なぜなら、「特区」としては補助金・税優遇をしなくても、個個の事業のほとんどは「構造改革」に合致する事業なのだから、「構造改革」推進のためのなんらかの補助金・税制優遇に該当するからである。