『労働通信』2002年9月号
さる通常国会にさいし、有事三法案と個人情報保護法案への広範な反対運動がまきおこり、成立を阻止することができた。しかし小泉政権はあきらめてはおらず、秋からの臨時国会での成立をねらっている。
小泉政権は八月一日、有事三法案成立のための態勢づくりとして、有事法制を検討する七つのチームを設置した。七チームのうち五つは、武力攻撃事態法案で法成立後二年以内に整備するとしている追加法にかんするもの。いわゆる「国民保護法制」「自衛隊の行動の円滑化」「米軍の行動の円滑化」「捕虜のとりあつかい」「非人道的行為の処罰」の五つである。あとの二つは、法整備とは無関係なのにもかかわらず、小泉首相が強引に追加させたもので、「テロ対策」と「不審船対策」だ。
政府はこのうちとくに「国民保護法制」を急いでおり、臨時国会で概要をあきらかにするとしている。
ここには野党、とりわけ民主党をだきこむねらいもある。通常国会で野党がこの点の未整備を突いた経過もあるからだ。
しかし、この「国民保護」というのはきわめてぎまん的な名称であり、実体は「国民」の「保護」とはほど遠い。
実際の中味は、まず第一に戦争への国民動員である。政府は、この法制の「中心になるのは住民保護で、町内会、自治会、消防団などを核にする」(片山総務相)としている。第二次大戦のときには「となり組」などの近隣組織が住民の動員・相互監視・各人の言動の統制に猛威をふるったが、その再現をねらっているのである。しかもそれは「有事」にとどまらず「平時」からである。「国民保護法制の整備にあたって組織や訓練について仕組みを考えていきたい」(同)――つまり、日ごろから住民組織を整備し、訓練をおこなわせようというのである。
第二に、「国民保護法制」は国民への強制である。政府はこの法制で、国民への業務従事命令、物資保管命令、私有地・施設の強制使用権などを国にあたえる方針を決めている。したがわない人人への罰則規定も明記する。
有事立法本体もその強制的性格をますますあらわにしている。七月二四日、福田官房長官は、武力攻撃事態法の適用において「思想・良心・信仰の自由が制約を受けることはありえる」と発言した。同法の法文そのものでは「国民は…必要な協力をするよう努めるものとする」(第八条)と、あたかも努力目標かのようにぼかして書かれているのだが、それはごまかしであり、実際には強制的義務規定としてとりあつかう意図をあらわにしたのである。
政府が有事立法の成立をあせる理由はなんだろうか。
一番の要因は、さきの通常国会に先だち日本が戦争当事国になった、ということだ。インド洋・アラビア海への自衛艦派遣や、米軍物資の空輸というかたちで。
なぜ日本は参戦したのか。アメリカを中心としたアフガン侵攻は、九・一一事件への報復ということもあるが、同時に石油・天然ガスなどの中央アジアの資源確保をめざしたものである。参戦によってこの権益の分け前にあずかろうというのが日本政府の参戦目的にほかならない。
アメリカによるイラク攻撃が計画されている。これもまた、中東の石油資源のためであり、日本政府はその分け前をできるだけ大きくするために、できるだけ本格的な参戦を望み、そのための態勢づくりを急いでいるのである。
かつて湾岸戦争にさいして、日本は大金をだしたが直接参戦はせず、そのためクウェート復興需要などに思うほど参入できず、またのちのアラビア石油利権期間切れにともなう交渉でも強い態度にでられず権益を失った。日本独占資本は、こうした目にあうのはもういやなのであり、また国際競争で死活的に不利になると考えているのである。
こんにち、日本の大企業はたいてい、多国籍資本となり世界中に活動拠点と権益を持っている。この権益を保護し拡大するため、戦争体制をつくろうとしているのである。
武力攻撃事態法案で、あたかも国土そのものへの攻撃への対処であるかのような体裁をとりながら、「武力攻撃のおそれがある場合」とか「予測されるにいたった事態」(第二条)とか、発動条件をあいまいにしているのも、そのためだ。
二番めの背景は、資本家階級の政治支配の危機が近づいていることだ。戦後つづいていた政治支配、利益誘導をテコに業界団体や地域ボスを通じ人人を選挙に動員するという方法は破産し財政的にももたなくなっている。小泉内閣は、一時的に人人の利権政治への怒りを吸収することができたが、構造改革とは一握りの投資家のための政治だということがばれ、ブームはさろうとしている。民主党などが体現しようとしている、より成熟した市民主義的支配の基盤はまだ弱い。となると、支配階級にとって、民族主義・国家主義ぐらいしかのこされた手段はない。
「個人情報保護法」はもともと、住民基本ネットと連動した法律という面を持つ。その住基ネットがこの八月、一時稼働し社会問題となっている。マスコミでは、自治体職員による不正や外部からの侵入の可能性が、住基ネットの問題点だといわれている。しかし、本当の重要問題は、国家による諸個人の管理にあることを忘れてはならない。
いま政府が「個人情報保護法」の制定をもくろみ住基ネット稼働を強行した背景はなんだろうか。
これまでも「国民総背番号制」構想など、同様の試みがくりかえされてきたが、さいきんはじめて技術的基盤ができたということもある。だがそれ以上に、有事立法の背景と共通の理由がある。すなわち、多国籍企業のための戦争態勢づくりと支配の危機への対処である。
また、住基ネットそのものも「国民保護法制」と連動している。「国民保護法制」は近隣レベルでの住民動員、相互監視、協力的でない人の選別をねらっている。このようにきめ細かな動員監視態勢は、住基ネットをつかった個個人の把握、統一したデータ蓄積に依存するのである。
| 秋の臨時国会のおもな焦点 ☆ 有事三法案 ☆ 個人情報保護法案 ☆ 学校教育法・私立学校法改定 (独立行政法人化の私大版) ☆ 規制改革特区 ☆ 研究投資減税・法人減税などと将来の大衆課税の抱き合わせ* ☆ 銀行合併推進 ☆ 会社設立の最低資本金免除 ☆ 知的財産基本法案* [8月中旬時点で政府関係者が提出を表明しているもの。 *印は臨時国会に出すか名言していない] |