運輸労連系労組が労働組合の存在意義を問う討議資料を配布

三谷 達也

『労働通信』2002年11月号

 連合系労働組合に、組織の存続の危機感が深まっている。企業の大小にかかわらず、グローバルな競争社会のなかで倒産や首切り、賃下げが深刻な問題となり、労働組合全体がそれに的確に対応できず、大きなカベに突きあたっているからである。消耗あるのみの虚脱感は組合員・組合役員に反映し、組合組織への求心力や組合の存在感はさがるばかりである。そのため、「組合離れ」に歯止めをかけるためにいろいろな方策や活動姿勢を模索している。

 ある運送会社の組合(運輸労連系)では、これまでの組合役員の思考の転換をうながす目的で『労働組合の存在意義とは!』という資料を作成し、組合論議に付しているので紹介する。

労働組合の存在意義を問う

 この資料では、労働組合が存在するための「意義」をみつけることを課題にしている。

 まず、労働組合の目的は「働く者の雇用・権利・労働条件、生活をまもり、向上させ、安心して生活できる社会の構築」であり、その目的のためには「統一と団結の産業別運動やナショナルセンターレベルの運動が不可欠」と明言している。労働組合の役割と運動の意義を端的にあらわしているし、だれもがみとめるところである。

 そのうえでこの資料は、「自分たちの会社を『良い会社』にするという労使共通の目的にむけて、労使が双方の立場で努力・工夫するという、すなわち『戦略一致、戦術対立』の路線で、労働組合運動を職場ぐるみで展開する」ことが、労働組合のあるべき姿だとしている。

賃上げは限界だと表明

 資料では、労働組合運動の重要なテーマの一つである賃金闘争にかんしては、社会構造や産業構造の変化、国際化と規制緩和などで「賃上げなどの生活向上闘争は限界」にきており、この取組を中心にすえることは「労働組合の存在価値をさげることになる」と表明している。そして、個個人の成果の達成度に応じて労働条件をきめる時代であるので、労働組合は組合員一人一人の能力開発にもっと力を注ぐ『教育機関』としての役割をもたなければならないとのべている。これが組合の存在価値であると位置づけているわけだ。

 このあたりは、本誌の今号の特集でとりあげている「エンプロイヤビリティ(雇用される能力)」に対応したもので、階級闘争よりも、独占資本・財界がもとめる労働者の能力開発に労働組合が協力していこうとするものである。

労働組合もマーケティングにより組合員の思いを聞け

 そのうえで、この資料の面白いところは、「労働組合もマーケティング(市場調査・分析)を」とよびかけているところである。

 すなわち、労働組合を一種の「サービス商品」と位置づけ、「サービス商品としての組合活動は、存在することに意義があるのではなく、なんらかの便益をうむことに存在意義がある」として、「組合員や従業員が何を思い、どんな便益をもとめているのか等、市場調査を徹底して実践することが重要」だとのべて、その具体的方法として組合員一人一人との面談をあげている。

組合役員の接客態度

 さらに「マーケティングを実践する場合、組合役員の組合員や従業員にたいする接客態度が媒介となり、組合活動の品質が決定する」とのべ、組合役員にもとめられる「接客態度」としてつぎの五つをあげている。

  1. 組合員の立場にたち組合員の視点から状況を把握する
  2. 礼儀正しく、ていねいな言葉づかいをする
  3. 安心感をあたえる
  4. 組合員の自尊心を尊重する
  5. 公平の原則を守る

 こうしておおくの組合員に組合活動を体験させ、満足感をあたえて「リピーターになってもらう努力をする」。ここの基本点は「運動方針の善し悪しではなく、組合役員の態度がよければ多少活動がお粗末でも組合員は満足する」というものである。

 たしかに、いまの組合役員が組合員のニーズを真剣に調査し、組合員にたいする「接客態度」を変えたら、ずいぶんと組合の姿はかわると思うのだが……。

 資料は、「組合員は組合活動のために会社にはいったのではない。大半の人々は入社したら、そこに労働組合があって、知らぬまに自動的に組合員になっていただけである。労働組合は、自分の人生を豊かにするために、会社や社会をすばらしいものするためにあるのだ。こういうビジョンがみえなければ組合活動はたんなる苦行になってしまいます」と、へんに納得してしまうことをいっている。

雇用、権利、賃金の要求は労働組合活動の原点

 あとは省略する。この連合系の組合は今年一二月に他の三産別組合と「交通運輸連合」(私鉄総連・交通労連・運輸労連・全自交労連)として産別再編、統一される。かたちとしては統一がすすんだことになるが、これによって「企業内組合の限界」状況が変化するかどうかは不確かである。

 たしかに、今年の五月に誕生した日本経済団体連合会の奥田会長が「企業も労働組合も変化に前向きに対応できないものは消えさる運命にある」といい、「一時期をのぞいてバブル崩壊後は一貫して実質ベアは上昇トレンドにある。日本としてデフレを脱却したとしても賃金上昇については悲観的にみざるをえない」とのべて、賃上げよりも情勢の変化に的確に対応できるほうが得策だとのべている。

 連合も、「春闘の中間まとめ」を提案した中央委員会で、「原則として賃金等にかんする具体的数値目標基準等は、部門別連絡会の調整と産別の決定にゆだねる」と発表した。これにたいし私鉄総連や全国一般などは、「部門別連絡会の取組だけでは対抗しきれない。連合産別が一体となって労働者の生活向上をかちとっていく態勢をつくれ」、「企業別労使関係を軸とする日本ではナショナルセンターの果たす役割はおおきく、賃上げをふくめた具体的要求水準をしめしてほしい」と反発している。

 企業内組合運動が「限界」となり、競争経済社会の歯止めとなりうる「真の産業別組合運動」を強力に推進することを考えない連合の提案は納得しがたい。やはりどんな情勢の変化があろうと、統一と団結をつよめ、雇用・権利・賃上げ、労働条件をかちとるたたかいは、労働組合活動の原点である。

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