人減らしで否応なくスキルアップさせ「合理化」促進

『労働通信』2002年11月号

 郵政の職場では、「エンプロイヤビリティ」という言葉はつかわれていないが、「能力アップ」「人材の育成」のかけ声でさまざまな搾取強化がおこなわれている。

 職員一五〇人以下の局では、「一人で三人前の仕事を」といわれている。労働者それぞれの所属部署にかかわらず、貯金・保険・郵便の三事業すべてについて精通することを要求するものだ。たとえば、配達をしながら一日二時間ぐらい保険や貯金の募集業務をさせられるようになった。そして、それをみこんで保険や貯金の人員は減員されている。

 三事業の垣根をこえた人事異動もはじめられている。いまのところはおもに労働者の希望による配置転換だが、保険などでは成績が悪ければ集配に転換させられている。

 また、すべての局で、各人の「能力一〇%アップ、経費の一〇%削減」がとなえられている。たとえば、これまで六〇分かけて集配していたのを五六分とか五五分でまわるよう各自が工夫させられている。

 ある普通局では一〇の窓口があるが、そのそれぞれについて本務者(正規職員)なら六カ月で仕事を覚えることになっている。この期間はおととしまで一年だった。いま当局は四カ月でできないか組合に打診してきている。

 その他、なにかにつけ「自覚」ということが強調され、労働者が技能や知識を身につけるための措置はなんらなされないのに、身につけるのが当然とされている。
 先の三事業への精通ということも、「精通せよ」というだけでなんのマニュアルも教えられない。もっぱら労働者個個人の負担とされている。あたらしい機械をいれたときも、かつては全員に講習をほどこしていたが、いまでは、ほんの一部の人だけだ。それでもその機械を使う仕事はまわってくるが、まわりにわかる人がだれひとりおらず、立ち往生してしまうこともある。

新昇格制度と研修制度

 郵政職場では九七年に「新昇格制度」が導入され、三年間の試行をへて、いまでは本格実施されている。

 「新昇格制度」は、「職務取組姿勢」や「職務遂行能力」などの考課点や「総合的貢献度合」「挑戦加点」などを所属課長が評価し点数化し、その結果によって昇級を左右させるというものだ。当局は相対評価でなく絶対評価としているが、俸給表では各級別に定数枠があり、結局相対評価になっている。競争があおられているのである。

 「エンプロイヤビリティ」に関連するのは、このうちとくに「挑戦加点」だ。各労働者にチャレンジ目標を設定させ、目標達成などで点数がくわえられるものだ。チャレンジ目標は指定講座を終了するか各人の目標を達成するかだ。「チャレンジ目標」と聞くと任意であるかのようだが、実質的には強制である。

 指定講座は、セールス、窓口英会話、マネジメントなど。受講料などは、資格試験などに合格すれば当局から半額でるが、不合格なら全額自己負担である。また学習時間の保障はなく、勤務時間外を犠牲にしなければならない。

 これとはべつに「自主研」と呼ばれるものが以前からあった。郵便の業務知識などの研修だ。これがかつては勤務時間内あつかいだったのに、いまでは時間外となっている。

 しかし、講座などで得られる知識は、かならずしも仕事の実際にあうものではない。当局はいろいろ講座などを労働者に押しつけてはいるが、それがどれだけ業務に役立つかはあまり考えていないふしもある。

当局と呼応する全逓執行部

 ほんらい、こうした搾取強化とたたかうべき組合執行部にも、当局と呼応した動きがある。二〇〇二年七月の第五〇回全逓近畿定期地方大会では、これまでの「定年まで安心して働ける職場づくり」から「定年まで働ける組合員のサポート」に大きく方針転換した。この方針説明のなかで、地本書記長は「(全逓近畿の活動は)どちらかといえば『当局追求型』や『問題摘発型』になりがちでした。組合員の求心性を当局との『対立』『抵抗』に求めた時代から『やるべきことはやり、求めるものは求める』ことを基本に方針転換する」と語っている。

現場への影響

 「一人で三人まえの仕事」を要求されている局では、局ごとの格差がはげしい。仕事に余裕のあった局や若い人のおおい局ではなんとかやりくりできているが、動きがとれなくなった局もおおい。こういうところでは、いったんはじめた「配達しながら保険・貯金の募集も」という態勢が破たんし、また元に戻したりしている。

 このような混乱が、繰り返されているのである。

 あらかじめ不可能なノルマを押しつけられることもおおい。たとえば、切手売り・はがき売りで非常勤と本務者(業務責任者=「業責」)がチームを組まされるが、ある局ではノルマがどんどんあげられ業責が自腹を切らざるをえなくなった。そのうえ欠員が生じたためついに会計操作をするまで追いつめられ、それがばれて退職させられた。さらにその後任の業責も自腹切りに追われ、局をやめざるをえなくなった、と悲劇がつづいている。

 労働者ごとの格差もある。若い人はまだしも新しい業務をおぼえたりしやすいが、高齢者にはつらく、仕事をやめざるをえなくなった人もおおい。若い人でも、保険など技能獲得がきびしい分野では、ついていけず仕事をやめた労働者も多い。
 先にあげた「チャレンジ目標」も、誰もが達成できるものではなく、講座合格などをあきらめ、昇級をあきらめた仲間もいる。

郵政に現れた「エンプロイヤビリティ」政策の特徴

 これらの搾取強化には、特徴的な手法がある。まず人員を減らし一人一人がよりおおくの仕事をこなさなければ職場がまわらないように追い込んで、否応なしに「スキルアップ」せざるをえないようにする、というものだ。つまり、労働者の「エンプロイヤビリティ」を高めそれによって「合理化」を可能にする、という順番ではない。

 同じく「合理化」といっても、昔は、資本・当局が新しい仕事の段取りを組んで労働者に強要するのが「合理化」だった。つまり、仕事を運営するのは資本・当局の責務だったのである。たとえその「新しい段取り」が労働者にとっていかにきびしいものだったにせよ、またその「強要」のしかたがストップウォッチを持って追いかけまわすなど冷酷なものだったにせよ、とにかく資本・当局は「仕事を組み立てる」責任は果たしていた。

 それがいまでは、単に人員削減をしたり「一〇%アップ」というだけで、あとは「仕事を組み立てる」こともふくめて労働者に丸投げするのが「合理化」である。いいかえれば、こんにちの職場において、仕事がうまくまわるように工夫し段取りを考えているのはもっぱら労働者。管理職はただどなったり脅したりするだけだ。

 その背景には、多能工化・IT化など郵政にかぎらない資本主義全体の変化、労働のあり方の変化が存在するのである。

労働者の意識と課題

 これらの事態への反発は大きいが、労働者の心に大きくのしかかっているのは「雇用不安」の意識だ。

 これにたいし、学習などで当局の政策など「どのようなことが起こっているか」の把握はすすんでいる。しかし、階級意識を持った自覚、おこっている事態のなかで「自分はどういう位置にあるのか」の把握は、できていない。それには、当局の政策などを整理するだけでなく、それを社会全体の枠組みのなかで理性的に整理した資料が必要だ。

 新昇格制度などのなかで、「できる」人とそうでない人との切り分けがやられている。それによって仲間意識が切り捨てられてくることは、重要な問題である。

 「エンプロイヤビリティ」政策は、社会全体の労働の質と強度を引き上げ、搾取を強化しようというもので、ほんらい総資本対総労働の問題である。にもかかわらず資本は、「エンプロイヤビリティ=雇われるための能力」とすることによって個人の能力と努力の問題にわい小化し、労働者を分断しようとしているのである。この政策の「分断」という性格を重視し、たたかわねばらない。

 他方、労働者は自然と、仕事をどうやってまわすかを考えるようになる。郵便事業全体への視野もひろがり、事業全体へ精通してきている。他方そのなかでの自分たちの位置の把握は弱い。

 また、仕事をまわすのを相談しながらやっていくということも、自然に生まれている。このことは先の仲間意識が切り捨てられるということと対立し、せめぎあっている。

 各職場の実践の教訓を伝えあう全国的ネットワークの形成も重要な課題だ。とりわけ現在の情勢のもとでは、「雇用不安」意識をいくらかでも乗り越えたり、団結をいくらか前進させたりと、一つ一つではほんの小さな一歩であっても、それらを積み上げていくことが大事である。他方、たった一つの職場だけでの実践では、継続して二歩三歩と成果をかちとれる保証はない。教訓をつたえあうことが肝心だ。教訓を引き継ぎあうことさえできれば、階級全体としては巨大な前進を勝ち取れるだろう。

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