『労働通信』2003年1月号
ながびく不況、それに追いうちをかけるような「構造改革」、リストラがすすめられるなかで、おおくの企業で賃金の切り下げがすすめられている。公務員についても賃下げの人事院勧告がはじめてだされている。
本誌では、その現状と労働者のたたかいについて調査・取材したり、読者のみなさんからの投稿などをいただき、考えてみた。
いま、賃下げの攻撃はあらゆる産業にひろがりつつある。
「春闘」においても、財界の労務対策機関である旧日経連(現在は日本経団連に組織再編)は、二〇〇〇年にはいってからそれまでの「ベア・ゼロ」方針にくわえて、「賃下げもありうる」との方針を公言し、実行しはじめてきた。とくに02「春闘」では、電機大手六社が回答直後に、あらためて賃下げや定期昇給の延期などをあいついで提案し、さらに国家公務員の賃金についても人事院がはじめての賃下げ勧告をおこない、地方自治体においても同様の賃下げ勧告を各人事委員会がだすなど、賃下げの影響は深刻なものとなっている。財界は03「春闘」においても、さらに賃下げ攻撃をつよめようとしている。

こうした賃下げ・リストラ攻勢のなかで真っ先に犠牲をうけているのが、中小や下請企業の労働者や、パート、派遣などの不安定雇用労働者(そのおおくが女性)であり、また過重労働のなかで肉体的・精神的に痛手をうけている労働者など、いずれも弱い立場にある労働者である。今回の特集にあたって本誌がおこなった調査でも、そのきびしい実態が電子メールなどでよせられている(七〜九ページ参照)。また、不況の犠牲を親会社から転嫁された日本通運の子会社の労働者のように、あいつぐ賃下げによって四〇歳代後半の労働者が月一〇〇時間の残業をやっても手取りが二〇万円を割り、生活破たんをきたす事態もめずらしくない(「弱い立場にある労働者が真っ先に犠牲に」の記事参照)。

賃下げの攻撃の一環として、成果実績主義の賃金体系の導入がすすんでおり、その導入率は大企業で八割以上、中小企業でも六割以上に達している(下のグラフ参照)。

賃金体系は八〇年代から九〇年代のなかばにかけて、年功序列型の賃金体系から能力主義型の賃金体系へ移行してきたが、さらに九〇年代の後半からは成果実績主義へと移行している。能力主義賃金とは、「それぞれの労働者がもっている仕事をする能力の高さに応じて賃金をきめる」ことを建前としているのにたいして、成果実績主義はその人の年功や能力などとは関係なしに「どんな成果をあげたか」によって賃金を決める建前である。
この成果実績主義賃金を導入するにあたって企業は、「がんばって成果をあげれば、賃金はどんどんあがる」「がんばる人とさぼっている人が賃金がおなじでは不公平だ」と宣伝してきた。しかし、それらは実際には企業が準備しなければならない賃金原資全体を圧縮するためにつかわれ、企業業績の悪化に応じて自動的に賃金をきりさげていくシステムとして作用している。一方、労働者の側では、「成果」をあげるために深夜までの長時間労働やサービス残業をつづけた結果、精神的・肉体的につぶされてしまう事態もうまれている。社会経済生産性本部の調査によると、上場企業二六六九社のうち約半数(四八・九%)が職場で「こころの病」(うつ病、心身症、神経症など)が増加していると答えている。
こんにちの熾烈な賃金切り下げ攻撃の背景にあるのが、資本主義経済のグローバル化である。
資本主義のグローバル化とは、資本がよりおおくの利潤をえるために、国境の枠をこえて、国際的な取引を拡大し、海外への資本投下を増大させ、生産活動や流通を国際的にネットワーク化し、労働力の国際的な移動を活発化させることである。とりわけ金融のグローバル化が重要な特徴である。このもとで、アメリカ、日本、ヨーロッパなどの多国籍企業は、競争相手をだしぬいてもうけるために、世界で最もコストが安いところで生産をおこなう体制をつくっている。そのため日本国内では、工場の海外移転があいつぎ、日本の労働者が日本の二〇分の一の賃金の中国の労働者と競争させられるような状況がつくられている。
そのことは国内産業を疲弊させ、企業の業績の悪化や不良債権の増大、賃下げ、リストラ、倒産、失業をもたらしている。それは、労働者の生活や家計を直撃し、消費支出の低迷をもたらさざるをえない。統計数字をみても、勤労者家庭の消費支出は一九九七年いらい五年連続でさがりつづけている(グラフ参照)。それはさらに、国内産業のいっそうの疲弊をもたらし、「デフレ・スパイラル」とよばれる悪循環をうみだしている。

重要なことは、この局面にあって政府や財界は、さらなる賃下げやリストラなど、労働者に犠牲を転嫁することによってのみ、危機からの「脱却」をはかろうとしていることである。
昨年一〇月に政府が発表した総合デフレ対策の「構造改革・セーフティーネット」は、整理回収機構への不良債権売却の促進や、企業のリストラの司令塔ともいえる「産業再生機構」の創設、一兆円をこえる大企業への減税などをうちだしている。これによってうみだされる失業者への対策として、「再生可能」な中小企業への融資制度や失業者を雇用した企業への特別奨励制度などもうたわれている。これが実施されれば、不良債権処理の名のもとにとくに中小企業へはお金がまわらなくなり、企業倒産や失業はさらに増加するであろう。政府はこのデフレ対策によって六五万人が失業するとの予測をだしているが、民間のシンクタンクなどはさらにおおくの失業者がでるとの予測をだしている。
小泉内閣がすすめる「構造改革」とそのもとでの賃下げ攻撃は、労働者の生活を破壊するだけでなく、日本の経済活動そのものも破壊するものであることがはっきりとしつつある。
こうしたなかでむかえる03「春闘」における賃金闘争はきわめて重要な意義をもっている。
「不況で、企業の業績が悪いから賃上げどころではない」という財界の主張は根本的に誤っている。不況で、企業の業績が悪いからこそ、大幅賃上げによって労働者の家計をゆたかにし、勤労者家庭の健全な消費支出を増加させ、さらに地場・中小企業を活性化させる産業政策なども実行することによって、内需を拡大し国内産業を活性化させていくことができるのである。それは、労働者を犠牲にして生産力を破壊している小泉「構造改革」を具体的にうちやぶるたたかいの一環でもある。
連合や全労連は、03「春闘」にあたってどのような労働者でも最低限これだけの賃金を確保するという「ミニマム課題」を重視しはじめている。
連合は「二〇〇三春季生活闘争」の方針で、結成いらいはじめてベースアップの統一要求基準を設定することをみおくり、中小・地場組合やパートタイム労働者の賃金の底上げ重視に運動の軸足を転換することをうちだした。そして、「最低到達目標」として、三五歳勤続一七年で二四万五〇〇〇円以上、三〇歳勤続一二年で二一万六〇〇〇円以上と設定した。また、めざすべき水準の「到達目標」としては、三五歳が三〇万五〇〇〇円以上、三〇歳が二六万四〇〇〇円以上で、一八歳初任給は一五万九〇〇〇円以上とした。
一方、全労連は「二〇〇三春闘」の統一要求基準として、@だれでもどこでも月額一万円以上の賃金底上げ、Aパート労働者のだれでもどこでも五〇円以上の時給ひきあげ、B一八歳・高卒初任給一八万円以上、C全国一律最低賃金「時給一〇〇〇円以上、日額七四〇〇円以上、月額一五万円以上」――との統一要求基準を提起した。
賃下げ攻撃が熾烈となり、とりわけ下層の労働者にもっともしわ寄せが押し付けられている現状のもとで、労働組合が「ミニマム課題」をかかげて、未組織労働者もふくめた全労働者の賃金水準のかさあげをはかり、その上にたって条件があるところでは賃金の引き上げをかちとっていくとは重要な意味をもっている。このなかでは、未組織の労働者の組織化がきわめて重要になっている。
これらのたたかいとあわせて、労働者の立場にたった社会保障制度の改革を要求していくことも不可欠となっている。