川田 貞夫( 運輸産業労働者)
『労働通信』2003年1月号
日本通運系列のある下請企業の労働組合で、組合委員長の除名処分問題が発生している。これは激しい賃下げ攻撃のなかで、労働組合がいかにして団結を強化していくかを問う重要な問題を含んでいる。この事件の関係者にレポートを寄せていただいた。
日本通運の子会社のある労働組合(組合員約一〇〇名)で、さいきんまれにみる事件がおこった。一部の組合員が、組合会計の臨時監査と組合大会の臨時開催をもとめて行動をおこした。臨時大会は開かれ、組合委員長が除名決議されたのである。
除名理由は、委員長の組合費横領と運行手当の切り下げを独断で会社側に認めたというものである。しかし、その委員長への査問、審査はなにもおこなわれず、臨時大会でいきなりの除名処分決議だった。
その後、新執行部は前委員長にたいして、会社を依願退職することを条件に除名決議を撤回することをもちかけた。会社側も前委員長に、組合の除名処分によってユニオンショップ制にもとづき解雇せざるをえないとして、本人に「依願による退職」をもとめた。
新執行部のメンバーは、前副委員長が新しい委員長となり、書記長は再任された。除名処分をうけた前委員長のもとでの執行部の有力幹部が無傷で組合の中枢をになっている。もしも前委員長に重大な問題があって、除名処分にあたいする行為をおこなったとするならば、執行部の責任でもあり、権利停止などなんらかの処分をうけても当然の人たちである。なのに前委員長を大会で血祭りにあげて、それでたりるとした執行部は、今後どういった組合運営をおこなうのか疑問の余地をのこした。
労働組合ならば、統制処分についてはきわめて慎重でなければならない。組合の規約違反は即処分とはならない。査問委員会を開催して弁明の機会をあたえ、弁護人をみとめ、事実にもとづいた審議をへて、必要かつ根拠があるとみとめられた場合にのみ処分をくだすべきである。処分が決定された場合でも、本人が公の場であらそうと申し出た場合は、決定を留保すべきである。このような手続きをへた場合によってのみ組合の統制が強まり、組合員の自覚と認識が前進し、団結が強化される。
こんな手続きもない今回の事件は、前委員長をクビにさせるつよい意図がはたらいていたと考えられる。
会社(従業員約一五○人)の経営はこの数年、経済不況と小泉首相の「構造改革」攻撃の影響をうけている。一九九九年度には売上総数が約一三億円であったが、二〇〇〇年度には一二億四〇〇〇万円、〇一年度には一二億七〇〇〇万円と低迷をつづけており、業績はいっこうに好転しない。日通の系列会社(地域に一○社ほど、従業員計一四〇〇人程度)のなかでも最下位クラスだ。
日本経済の構造不況と規制緩和による運輸業界の競争の激化によって、ペリカン便、小荷物・引っ越し(企業・個人)、日通航空の集荷・配達が大幅に減り、「赤字」がつづいている。さらに、親会社である日通からは単価がきり下げられても、売上の一○〜二○%の日通への上納金はすえおかれている。
このかん、日通独占の指導のもとに、大幅な賃金のきりさげがつよめられた。さいしょに会社は長距離運転手当(関東五万円、関西三万円、鹿児島・宮崎一万五〇〇〇円など)を二〇〇二年四月までに廃止した(前委員長時代にみとめていたもの)。さらに会社は、前委員長に除名処分をくだした新執行部にたいしても、基本給の一○%カットをはじめ、通勤費や職務手当など各種手当の撤廃をおしつけた。二〇〇二年一一月の賃金総支給額は二五万円(四六才で勤続一七年、残業一〇〇時間分ふくむ)たらずで、各種保険などがさしひかれた手取りは二〇万円をきる。しかも、これは賃金のきりかえ時なので一〇月後半分の一五日分は、一○%がカットされていない賃金規定が適用されているのであり、一二月分の賃金からは三万円ぐらいさがり、生活破綻者がではじめる低賃金である。すでに一〇数名の労働者が「自主退職」においこまれた。
委員長の「除名・解雇」は、あきらかに会社・資本の陰謀である。すでにこのできごといらい、大幅な賃下げ攻撃をうけ、「自己都合退職」においこまれる組合員の姿がある。前委員長の「除名・解雇」事件の本質は、搾取をあらゆるかたちでつよめ、年間一億円にもおよぶ賃金削減をおこなうところにあった。
いま、運輸労働者や関連労組の組合員は、前委員長が処分を不服として裁判でたたかおうとしていることを支持して運動をおこそうとしている。どんな就業規則、労働協約、いかなる立場の労働者であっても、生存権などの権利、文化的生活をいとなむ権利をおかしてはならない。労働組合とおおくの労働者がこの裁判闘争を、賃金きりさげなどリストラ「合理化」に反対し、労働組合を労働者、組合員の真の利益をまもる運動組織へと発展させることはきわめて重要である。
企業側は、自己の利益を最大限まもるために、いいかえるならば、すべての犠牲を労働者に転嫁するために、「雇用をとるか、賃金をとるか」とせまるという手口で労働者を屈服させてきた。企業、資本と労働者の利害はまったく対立している。労働者の労働力の価値は、資本主義社会のもとでは市場価格によって決定される。よって、こうした不況のもとではその価格も下落しており、労働者はそれを無視することはできないが、その下落傾向とのたたかいのなかで、労働組合は最大限に労働者側の利益をまもっていかなければならない。
この新執行部が、企業、資本の側の「会社を整理する」という攻撃に屈服した原因を検討するなら、それは一企業と組合という狭い視野にもとづいてものをみているからだ。親会社との関係、地域、産別、業種との関係など、ひろい視野からみれば、「会社を整理する」ということが虚言であることが理解できる。この「会社を整理する」ということは、親会社がその県、地域から撤退するということを意味する。将来は考えられるということもあるが、現実からみるならば、とても整理できない状況におかれている。企業内組合という組合員の視野の狭さに、企業、資本の側からつけこまれたということがいえる。
つぎには、労働組合についての理解の水準が低いという問題があると考えられる。新執行部は前委員長にたいし、依願退職すれば除名処分を撤回するとのべているが、「除名」処分は大会決定である。大会をへなければ大会決議事項は変更できない。それを新執行部の権限で撤回するとなれば、大会決定のうえに執行部権限があると考えていることは明白である。労働組合についての初歩的理解が欠如している。執行部は大会決議、運動方針にもとづいて活動しなければならない。大会が最高の議決機関で、その決定に執行部はしたがわなければならない。労働組合とその機関運営はどうあるべきか、おおいに論議をすすめ、組合員全員の水準をひきあげることがもとめられている。