| 特集 労組のあり方が問われる03春闘 |
『労働通信』2003年3月号
財界が賃下げ攻撃を強め、トヨタ労組を初め大手の労働組合が軒並みベースアップ要求すら放棄するなかで、どのようなたたかいを組織していくのかが問われている。本誌では、建設業やビルメンテナンス業の中小企業労働者のたたかいを組織している全港湾関西地方建設支部副委員長・中村猛さんにお話を伺った。
――まず、全港湾建設支部の概要について話して下さい。
全港湾建設支部は、組合員が九〇〇人いて、そのうちの六〇〇人がビルメンテナンスの労働者――掃除のおばちゃん、おっちゃんたちです。そのほかに、設計事務所の労働者、釜ヶ崎の日雇労働者、建設現場の労働者、ゼネコンの労働者などを組織しています。
もともとは、港湾労働法、港湾運送事業法で守られている港湾の現場に、釜ヶ崎の日雇労働者が非常に安い賃金でヤミ雇用で流れてくるなかで、釜ヶ崎の建設労働者を組織しようというところからはじまりました。その後、ビルメンの労働者が圧倒的におおくなり、いまは建設業やビルメン業を中心とした地域合同労組的な組織になっています。
――最近の建設業界の動向はどうでしょうか?
日本はかつて、建設業がGDPの三〇%を占めるという、典型的な「土建国家」であったわけですが、いまはその半分ぐらいに落ち込んでいます。一時は、農業の解体後の労働者の受け皿が建設業界であったわけですが、いまは労働力を送りだす側になっています。ゼネコンの場合、ゼネコン=談合=公共工事という風潮もあって、建設業界にはますます逆風が吹いている状態で、労働者も働きにくくなっています。
仕事量も減っており、働けるのは五〇歳ぐらいまでです。最近は、外国人労働者のニューカマーが増えています。彼らは、フィリピンなどから来て、鉄筋工としての研修などを受けて、日本人なら一万二〇〇〇円〜一万三〇〇〇円ぐらいの日当のところを六〇〇〇円ぐらいで働きます。彼らの方が若いし、力もあるし、技能研修も受けているので、高齢の日本人労働者はいっそう不利になっていきます。
――建設にくらべると、ビルメンテナンスの組合員がおおいようですが……
ビルメン産業というのは、ビルの床面積の増大にともなって労働者の数が増えていく、あらたな都市型のサービス産業だといえます。
われわれとしては、「ビルメンの組合といえば、全港湾建設支部だ」という「常識」をつくろうという組織戦略をとってきました。とくに、大手の企業を重視し、そこに一人でも組合員を獲得したら、大大的に宣伝し、ビルメン労働者が「なにか困ったことがあれば全港湾建設支部へ相談にいこう」となるように宣伝してきました。
ただ、問題なのはビルメン業界の労働者は、一つの企業に滞留する期間がひじょうに短くて、流動がはげしいということです。そのため、一人一人の労働者をオルグして組合に組織していくというやり方では組織化がむずかしいのです。そこで、たたかいをつうじて各分会でユニオンショップ協定をむすぶように指導しています。そうなると会社に就職したら自動的に組合員になるので、きちんとオルグして組合に加盟した労働者にくらべたら組合員としての意識が低いという弱点もありますが、ビルメンのような数で多数を獲得していくことが重要な業界ではユニオンショップ協定がむいていると思います。
――03春闘では、財界が賃下げを公言し、トヨタ労組が史上空前の黒字であるにもかかわらずベースアップを要求しないという事態になっています。
賃上げ要求というのは、労働者の側からの生活費の「見積もり」です。要求をだせる組合はどんどんとだしていくべきです。
いまの状況は、労働組合の存在意義が本当に問われています。一方で失業率がどんどんと高まり、もう一方で過労死が生まれています。仕事に追われる人と仕事のない人が共存しています。失業率の高さ、雇用不安が、労働者の権利主張を押さえる役割を果たし、サービス残業や過労死がおこるという最悪の状況です。
ほんらいであれば労働組合にたいするニーズは高まっているはずなんです。
ですから春闘では、労働組合がどういう社会的役割を果たさなければならないかを議論し、その流れのなかで要求をまとめ、実際の運動をすすめ、総括するなかでまた議論していくことが大事だと思います。
私がいま、日本の労働運動を変えていくうえで重要だと思うのは、一つは労働者が自らを「労働者宣言」をすることであり、もう一つは企業内組合の枠をどう突き破るかということだと思っています。
――「労働者宣言」をするというのは、どういうことでしょうか?
労働者がみずからを、労働者だと誇りをもっていえなくなっているでしょう。「労働者宣言」とは、かつて未解放部落の子供たちが学校で「部落民宣言」をやって、部落解放のためにたたかうことを公然と決意表明して、同盟休校にはいっていったというたたかいがありましたが、あれとおなじです。
いま、日本社会でも階級分化がはげしくなっています。労働者の息子として生まれた人が、階級の壁を超えて資本家になるということは、よっぽど才能があってもむずかしい。そうであるならば、労働者であることに誇りをもち、労働者が人間らしく生きていける社会をつくるために一生がんばっていこうということを宣言することです。
――もう一点の「企業内組合の限界をうちやぶる」というのは、これまでもいわれてきたことですが、具体的にはどういうことでしょうか?
企業の利益から自由な組合をつくるということです。そのため、全港湾では各企業単位で組織している分会の交渉には支部の執行委員がかならず参加しますし、最終的な妥結権は支部が持っています。地域では企業を超えた団交の相互乗り入れのようなこともやっています。
企業内組合だと、どうしても会社の利益に左右されるからです。
大阪府では、黒田革新府政の時代に「不当労働行為や労基法違反をやっている業者は府の入札に参加させない」ということを府に約束させ、毎年この約束を確認させています。そして、実際に建設支部傘下の分会にたいして不当労働行為をやっている企業が入札しようとすれば、われわれは組合として、「あの会社には指名競争入札をさせるな」と圧力をかけます。これは産別組合だからできることであって、企業内組合では絶対にできません。
それに、企業内組合だとどうしてもものの見方の視野がせまくなります。
複数の組合がある会社で、会社側が多数派の組合としか労働協約を結ばないといってきました。その会社の組合員たちも、「そういうもんだ」と思っていました。私が、企業の外から来た交渉委員として団交に参加したときにそのことを知って、「団交で確認したことを文章にしないというのは不当労働行為だ」と指摘したら、会社側はびっくりして、すぐに労働協約を文書化してきました。その会社の組合員もびっくりしたわけです。
だいたい、企業内組合で交渉するとなると、相手は職場の上司や先輩であったり、世話になった人や、自分を雇ってくれた社長でしょ。ときには組合活動を教えてくれた人の場合もあるわけで、要するに一番、交渉しにくい相手が向こう側にずらりと並んでいるんです。いいたいことも、いえません。しかし、私が団交に参加した場合は、相手は上司でも先輩でもないし、世話にもなってもいないので、いいたいことがいえるし、労働者全体の利益に立って判断ができます。
こういう産別の機能を生かして、労働組合が産業政策をうちだしたり、情報を流したりできますし、場合によっては外から企業に便益をあたえることだってできるんです。
産業政策では、産業の空洞化がすすむなかで、技術を伝承するということも課題になってくると思います。一時、自動車総連が日本の自動車産業の技術を伝承するということをいっていましたが、これを本気でやりだしたら、産別の運動として前進したと思います。造船でも、造船技術の伝承が課題だと思います。労働組合は、実は技術者集団であり、日本の産業をになっているんです。
――自治体によるビルメン事業の競争入札にたいしてユニークな闘争をされているようですね。
市役所の庁舎のビルメン事業をめぐって競争入札があります。建設支部は、庁舎のビル管理をやっている会社の労働者を組織しているのですが、組合員にとっては自分の会社がひきつづき入札で仕事をとれるかどうかが大問題でした。
この問題にたいして組合としては、行政にたいして競争入札の結果としていまの会社が入札で仕事をとろうがとるまいが、現にいまそこで働いている労働者は継続して雇用させるということを要求し、認めさせました。同じ職場に、建設支部の組合員でない労働者が一人だけいましたが、その人も含めて継続雇用することを認めさせました。
こうしたたたかいも企業内組合ではできません。組合員のみなさんには、「雇用を守ったのは、会社ではなく、組合だ」ということを強調しています。
また、入札の最低制限価格も設定させることも要求してきました。労働者の雇用を保証し、かつ業者にも適正な利益をもたらすだけの価格は確保しろと。そうでないと、業者同士の価格の叩き合いになってしまい、業界全体の体力が落ちてしまいます。日本の産業全体の力を落とすことになります。
このビルメン業界というのは、知的障害者や高齢者、体が弱い人など、就職が困難な人たちにとって非常によい仕事の場なのです。とくに市役所やNTTなどの立派なビルは、あの建物自体で雇用をつくりだすことができるのです。知的障害者の方の場合、通勤に介護が必要な場合もありますが、自治体ならそうした条件もつくりだすことができます。
われわれは、そうしたことを自治体に要求し、少しずつではあるが耳を傾けてくれるようになってきています。
いずれにせよ、中小企業の労働運動では、企業内でものをみていてはどうしようもないので、産業政策が必要なんです。そのためには、産別労働組合が広い視野で問題を提起していかなければなりません。
韓国などでは、労働組合の組織戦略や政策を立案していくためのシンクタンクが数おおくあります。各産業の労働者の状況などについての基礎データや基礎研究をやる学者と、労働組合の活動家が共同で研究して、産業政策や組合の対策をつくっていくような機関です。そういうものがないと、労働運動も発展させられません。われわれとしても、当面は賃金差別問題をテーマにして、基礎研究もやるし、労働者にたいする教育もやるし、政策・方針をうちだして、場合によっては闘争も組織していけるような組織をたちあげようと準備しているところです。
――ところで労基法改悪反対が大きな課題になっていますね。
今回の労基法改悪の最大の問題点は、「解雇の自由化」をうたっていることです。今までなら、労働者が不当解雇問題で裁判所に訴えをおこせば、裁判所は企業にたいして「なぜ解雇したのか」を聞いたのですが、この改悪案がとおれば、解雇権の濫用にあたることを労働者の方が立証しなければならなくなります。
ある府会議員から、「中村さん、これは労働組合だけの課題でなく、国民的課題ですよ」といわれ、私もはっとしました。労働者や労働組合だけの問題ではない。大阪ユニオンネットワークでも、弁護団と一緒にパンフレットを発行したり、集会、デモ、労働局との交渉などをやっています。労働組合だけでなく、市民団体なども巻き込んだ運動にしていく必要があります。
いま、労基法改悪による解雇の自由化、構造改革特区、公務員法改悪が大きな課題になっていますが、実は韓国でも全くおなじ問題が課題になっているんです。日韓の労働運動で、共通の闘争課題で同時にたたかわなければならないという事態はこれがはじめてです。
韓国の場合は労働法改悪の問題をまさに国民的課題としてとらえ、民主労総と韓国労総に百を超える市民団体が加わった共闘組織がつくられ、全面ストライキや与党民主党の支部の占拠闘争など、まさに全国民的な闘争がくりひろげられています。もし、日本で労基法改悪がとおってしまえば、すぐに韓国にも影響をあたえるという関係にあり、われわれの責任も重大です。
――韓国の話がでましたが、中村さんは韓国の民主労組との連帯運動を早くからとりくみ、「労働組合リーダー論」(金錦守著)という本も翻訳、出版されています。
| 一〇年ほど前に私がはじめて韓国の全労協(現在の民主労総の前身)主催の労働者大会に参加したときは、日本から一〇人ほどの参加でしたが、昨年の大会には日本から約一五〇人の労働者が参加するまでになりました。
韓国の労働運動は、労働者に感動をあたえるんです。日本から参加した労働者も、もう最後には向こうの労働者と抱き合って、「また合おうな!」「今度はぜひ日本へ来てくれ!」と、いわゆるウルウル状態になり、あとからメールが来たらまた感動する。とくに若い労働者はハマってしまいますね。 韓国の労働運動は、民主的な運営を貫き、組合員を本当に大事にしています。それに組合員同士の議論の深度が違うし、なかま同士の真摯な批判と自己批判をやります。 |
![]() ISBN4-7503-1584-2 |
私なども、初めて韓国へいったとき、「中村さん、あなたは大衆的活動家ではないでしょう」といきなりいわれました。「あなたはむずかしい顔をしている。組合員はなにか相談事があるときは、組合事務所の前でさんざん迷ったあげくドアを開ける。そのとき、そんなむずかしい顔をした幹部が座っていたらどうするのか」と。組合幹部は、あかるくて、人間的な温かみがなくてはいけないということを率直にいってくれるわけです。
私が知っているある組合は、組合員が七〇〇人ほどで、五人の専従がいるのですが、かれらはみんな無給でがんばっています。そういう姿もみんな見ています。日本の大企業の組合幹部のように、自分は年収一〇〇〇万も二〇〇〇万ももらって、その地位を守るために組合員の賃下げをあえて通す――こんな組合にだれが魅力を感じますか。
しかし、日本の労働運動も、ある時点で急激に変化する時期が来ると思います。考えてみれば、私が初めて韓国へいったころはまだ軍事独裁政権下で、私の行動は逐一安企部にウォッチされていました。しかし、その後、金泳三政権、金大中政権ときて、今度は盧武鉉が大統領になりました。世界の歴史は確実に前進してきているんです。世界にくらべると、日本だけ歴史的に後退しているようにみえるけど、いつまでも歴史の流れに遅れているわけにはいかないと思います。その日に向けて、われわれも明るく、楽天的な気持ちで準備していきたいと思っています。
――どうもありがとうございました。