『労働通信』2003年5月号
「やりがい」を強調するが青年層の関心は低迷 |
製造業・従業員規模二万人のM社では、昨年一二月に「新人事制度」が会社より提案され労組により職場展開された。
現行の人事・賃金制度は一九八三年に導入され、おおまかに分類すると年齢給が六割、残りの四割が職能給・成績給で構成されている。高卒は職務級2級1号・大卒3級1号・院卒4級1号からスタートし一般的な評価がなされると、毎年高卒で1号、大卒・院卒で2号づつ昇給し、4級職までは上司の裁量により6号あたりまで昇級される。5級以上は試験の合否により昇級がきまる。しかし、昇級試験に挑む機会は職制がにぎっており、都合のいい人材に機会をまわせば、昇級の機会を奪われる人もでてくる。そこで救済処置として、定年退職になる数年まえに推薦で5級に昇級するシステムがあり、職場では「おなさけ5級」と呼ばれ、めったなことがないかぎり、一定のところまでは昇級していく。

現行の人事・賃金制度を要約すると、会社に都合のいい人材育成と労働力を確保するための制度である。
そして、今回導入される制度はどのようなものかというと、「より能力・成果を重視する」と会社は提案し、それにたいし労組は「従来より頑張った人が報われ、公正な評価がおこなわれるように運用する」と職場展開し、会社は青年労働者を中心に選抜しプロモーション・ビデオを作成し「やりがい」を連呼させ、労働者の意欲を発揚させようとした。
しかし、実際はというと賃金は主任の最高クラスで八〇〇万円くらいと上限をおさえ、各等級の上限クラスは頭数を定めている。そして、年配労働者の大半が該当する制度移行時の賃金補てん者にたいしては、月給は現行賃金を保障するが、一時金は二五%カット。評価は試験制度が廃止され、職制による現行より評価項目が細分化された五段階評価によるものであった。
職制による職場説明会では、青年労働者の大半は「睡眠学習」、質問するのは年配労働者で、「みんなが、がんばったらみんな評価するのが能力主義じゃないのか」「僕もそう思います(職制)」、「難易度を評価しているが、簡単な仕事をやらされる者は評価されないのか」「ミスなく継続されることは評価に値します(職制)」と苦しい答弁がつづいた。
誰の目にも「賃金抑制策」が主であることはあきらかであった。
二〇〇二年一二月段階の職場提案後は、年が明けて二月に修正案が提示された。賃金面での主な柱は、賃金補てん者が多数生じモラルがダウンするため、各等級の賃金レンジの上限が若干引き上げられた点と、扶養手当受給者にたいして、現行受給者にかぎり調整給というかたちで手当の補てんがなされ、「公正」という大義は影に追いやられ一部労働者の不満解消策がとられる。
修正案提示後は、「新人事・賃金制度」の動きはなく、職場では「会社は四月に導入するといっていたが、もう四月になる、どうなるのか」と不満と不安の入り混じった空気が発ちこめていた。
ついに、四月を迎えた。動きが急展開する。
組合から、代議員会で「職場の大勢の理解がえられたと判断し、労使合意の方向で職場討議をおこなうことが了承された」と職場討議資料がまかれた。しかも、導入時期は二〇〇三年四月。
職場討議では、「導入が決まっているのに、賛否を問う意味があるのか」「職場の意見が反映されない」「組合執行部も、職場の要求に応えたか否かで判断する能力主義賃金にせよ」と組合の対応への不満があいついでだされた。大半をしめた反対意見からは「能力主義といいながら賃金の上限を定めるのはおかしい」「各等級の賃金レンジの人数割合を定めているのはおかしい」「評価基準が職制の主観による判断であり公正でない」など出された。
職場討議後、賛成した青年に「なぜ、賛成なのか」聞いたところ「一番下のレベルだから、今の給料に関係ないから、別にいいです」と答えた。あまりにもせつない意見であった。このことを、職場の三十代の労働者と話したところ「一番将来的に関わり興味をしめす層でなくてはならないのに、そうなってない制度の導入は問題である」「賃金の上限が決められたら夢がない」「プロ野球の選手のように、打率とか数字で評価するようにするか、評価会社に委託すべきだ」「会社がこんな時だから、活力が出る特色ある賃金制度が必要ではないか」「なんとかしてやりたいね」と締めくくられた。
職場討議の様子を、ある労働者に話すと「自分の職場では討議がされず、将来に関わる問題を個人的な意見提出にとどめるな」と職場委員に意見を上げたという。御用組合の「組合民主主義の破壊」は「意見をあげても無駄」というところからたやすく想像がつく。「民意を損なう合意をするという方向づけされた上での職場提起」「他単組からあがった意見や集約状況」「代議員段階での議事運営報告」など、雲の上で繰り広げられる世界に一矢をはなち組合民主主義を少しでも前進させていきたい。
御用組合とはいえ、決定したかのような方向で職場討議にかけるやり方は、最近のことであり、国際競争時代に打ち勝つ新御用組合運営なのかどうかは定かではないが、警戒しなくてはならない。しかし、職場には「別組合でもつくるか」「バズーカー砲で執行部をぶっとばすか」と御用組合に対する怒りは、かなり鬱積(うっせき)している。