評者 前田 伸治
『労働通信』2003年5月号
いま、アメリカ、ブッシュ大統領に関する本がおおく書店にならんでいる。
「これが世界の裸の王様アメリカの本当の姿だ」「米国人ジャーナリストが、あえて自国の無知・非常識ぶりを明らかにする」
これはこの本の帯に書かれた内容である。私は「あえて自国の――」というところにひかれてこの本を手にした。
米国人ジャーナリスト、マーク・ハーツカードはこの本の取材のため、ヨーロッパ、中東、アフリカ、アジアの一五カ国をまわった。かれが取材した人たちとその感想を本の内容からいくつか紹介する。
「幸いにも、アメリカに関する意見を幅広い層から集めることができた。政財界の世慣れたリーダー、夢想的なティーンエイジャー、何カ国語もあやつる知識人、読み書きできない農民、それに労働者、主婦、ジャーナリスト、そして、少なからぬ数の移民希望者。それらのエリートと一般大衆が同じようにアメリカに敬服の念と不安の両方を抱き、うらやましいと同時に恐ろしく、魅力的だが尊大な国だと思っていることに、私は何度も驚かされた」
「アメリカ――大金持ちで、やたらと銃を撃つ国。精緻な分析とは言えないが、世界も大半がアメリカをどう見ているかを、なかなかうまく言い当てている」
「九月一一日の悲劇が生んだ被害者意識にとらわれて、それまでにほかの国々がアメリカに対して数多くの、もっともな不満を抱いていたという事実から目をそむけてはならない。実際、ブッシュ政権が地球温暖化防止の京都議定書と弾道弾迎撃ミサイル制限条約から撤退したことや、アメリカが国際刑事裁判所への加盟を拒否したことへの最も辛辣な批判のいくつかは、テロリズムに対抗して即座にアメリカと協力しあったほからならぬその指導者たち、とりわけイギリスのトニー・ブレア首相やドイツのゲアハルト・シュレーダー首相、フランスのジャック・シラク大統領が発したものだ」
「九・一一同時多発テロのあと、アメリカのオピニオン・リーダーの五二%が、〈アメリカは世界でよいことをたくさん実行している〉におおむねイエスと答えた。ほかの国々で、アメリカのその楽天的な評価に同調したオピニオン・リーダーはわずか二一%である」
「アメリカ人は、地球を共有している六〇億の人々と健全な関係を築きたいなら、彼らがどんな人々で、どんな生活をいとなみ、なにを考え、なぜそう考えているのかを理解する必要がある。これは慈善行為ではない。自分たちのためなのだ。 アメリカは二つの大洋と史上最強の軍隊に護られているかもしれないが、国民への攻撃が不可能でないことは、いまや、アメリカ人自身が承知している。 アメリカは、しだいに悪化しつつある不平等世界の頂上にいる。そして、人類の四五%は、一日あたり二ドル未満で生活している。こんな状況では、ほかならぬCIAが警告しているように、平和や繁栄など期待できない。〈不平等の拡大によって、置き去りにされたと感じている集団は政治的、民族的、イデオロギー的、宗教的な過激主義に走り、しばしば暴力にも訴えるようになるだろう〉と、二〇〇〇年にCIAのある報告書が予測している。」(第一章 世界を知らないアメリカ)
「ブッシュは、差し迫ったアメリカ主導の対テロリズム戦で、諸外国は〈われわれの側につくかそれともテロリストの側につくか〉だということを理解しなければならない、と声明を出した。〈生きていようと死んでいようと〉ビンラディンをつかまえたいというブッシュの宣言と同じく、これはむしろ西部劇に出てくる保安官のセリフ〈おれの言うとおりにしろ、さもなければ町から出ていけ〉に近い。そしてこれこそ、何十年も前からアメリカの友人と敵の両方を不愉快にさせてきた態度にほかならない。多くの国がすでにテロリズムによって痛ましい経験をしていることなどお構いなしだ。それらの国々もワシントンの命令に従うだろう、さもないと………。アメリカ自体はそのような強硬主義を絶対に容認しないだろうが、アメリカの政界と、マスコミのエリートたちは、ブッシュ発言の傲慢さにきずかなかった。」
「アメリカ人の大半は外の世界のことをほとんど知らず、とりわけ、政府がアメリカ人の名を借りてなにをしているかという情報に不足しているのである。例えば、アメリカ人は絶えず、しかも、正確に、サダム・フセインが邪悪な男だということを思いだすが、アメリカが強制した経済制裁によって一九九一年以来、少なくとも三五万人のイラクの子供たちが死亡し、かつては裕福だったイラクの中産階級が貧乏になっていることは知らされていない。二〇〇二年三月から四月にかけて激化したイスラエル人とパレスチナ人の血なまぐさい暴力行為は、アメリカのマスメディアにひんぱんにとりあげられた。だが、多くのアメリカ人は、その紛争の基本的な状況をいまだ知らずにいる。五月はじめにメリーランド大学の〈国際政策と意識にかんするプログラム〉が実施した世論調査によると、その戦いでイスラエル人よりパレスチナ人のほうが多く死んだ事実を知っていたのは、アメリカ人の三二%だけだった。また、世界のほとんどの国がアメリカの中東政策に反対していると知っていたのは四三%。そして、ほとんどの国々がイスラエル側よりパレスチナ側に同情的だと知っていたのは二七%にすぎなかった」(第四章 アメリカ帝国がしてきたこと)
「批判者たちの批判の核心は、次のようなものだ。現行のグローバル化は、世界の大多数を占める貧困、労働者階級をひどい目にあわせる一方で、金持ちと企業のエリートには莫大な利益をもたらしてきた。そのうえ、自由市場モデルは他の何にも増して経済成長を重んじるので、環境を破壊し、公共サービスの予算を打ち切り、労働と人権を脅かす」(第九章 心の植民地化)
この本は、全体として、今日のアメリカ批判が大半を占めている。しかし、著者は最後の「 第十章 九・一一をどう越えるか」の項で、これからのアメリカの希望についても熱く述べている。
「アメリカには革命が必要だ。暴力と無秩序の革命ではなく。価値観と考え方の革命、われわれはどこから来たのかを思いだす革命。アメリカは革命のなかで生まれた。アメリカは自由と公正に捧げられ、その基本理念は、すべての市民は対等の人間としてひとつにまとまり、自らを統治することができるというものだ。一七七六年当時、これは過激な考え方だったが、今も、依然として過激な考え方だ。そして、その実現のために闘う価値がある。自分たちの民主主義を取り戻し、再び誇るべき器をかたちずくるのは、苦しい闘いであるにちがいない。しかし、わたしはアメリカ人らしく信じている。苦しい闘いの果てには、幸せな結末が待っていると」
この本は、アメリカの現状と課題をアメリカの歴史から深めている。
是非、この本はみなさんにおすすめしたいと思う。