![]() |
(3)税制改悪 |
『労働通信』2003年7月号
『しっかりちゃんの税金日記』というホームページをご存知だろうか(下記にURLを掲載)。
http://homepage1.nifty.com/shikari/
そこに、今年度から実施された配偶者特別控除の廃止や社会保険料の引き上げの家計への影響をシュミレーションするコーナーがある。年収六四〇万円で、妻は専業主婦、子どもが二人いるAさんが自分のデータをいれて計算してみると、なんと所得税・住民税あわせて約五万三〇〇〇円の増税、社会保険料の増額分もふくめると年間約八万五〇〇〇円もの負担増となることがわかった(表1)。

「五万三〇〇〇円といえば、わが家の一ヵ月の食費がふっとぶことになるぞ。社会保険料の値上げ分もふくめ、何を節約するか考えなければならない」。Aさんは深刻な面持ちとなった。
構造改革の一環として、税制もおおきくかわろうとしている。今年度の税制改革では、配偶者特別控除の廃止や相続税の見直し、研究開発費の減税などが実施され、来年度には大手企業むけに外形標準課税の導入も予定されている。小泉首相は、自分の在任中は消費税の引き上げはおこなわないと言明しているが、日本経団連が今年の正月に発表した「奥田ビジョン」では、消費税を二〇二五年までに段階的に一八%までひきあげていくべきだと提言している。この税制改革とはいかなるしろものであろうか。
最初にのべた配偶者特別控除の廃止は、専業主婦の家庭や、配偶者の年収が一〇三万円以下(とくに年収七〇万円以下)である労働者の家庭の可処分所得が大幅に減ることを意味している。国税庁がしめしたモデルケースでも、夫婦と子ども二人、夫の年収が七〇〇万円、妻の年収が七〇万円未満の家庭の場合、五万九〇〇〇円もの増税となる。やはり家庭の一カ月の食費に相当するぐらいの金額ではないだろうか。配偶者控除の適用者は一〇九〇万人、配偶者特別控除の適用者は一一五〇万人であり、給与所得者のうち四人に一人が影響を受けることになる。
ご存知のように日本の所得税は、累進課税といって所得が高い人ほど高い税率を課すというシステムをとってきた。そうした考えにたって、家族構成など個々人の生活上の事情を考慮して、配偶者控除・配偶者特別控除などさまざまな控除制度をもうけてきた。
これにたいして財界は「頑張って働いたものが、収入の半分以上を税金でもっていかれたら、やる気をなくしてしまい、日本経済が停滞してしまう」などといって所得税の累進率の緩和を要求し、かつては七六%であった所得税の最高税率を現在は五〇%までさげさせてきた。この高所得者への減税分を低所得者への増税でまかなおうというのが今回の所得税改革の狙いである。
そのほか、所得税改革の今後の方向として、「二元的所得税制」などという議論が生まれている。これは、所得税の課税標準を「勤労所得」と「金融所得」にわけ、「勤労所得」には重課税を、「金融所得」には軽課税の措置をとるというものである。「これまで白眼視されてきた金融・資本所得を優遇して、株式その他の証券所得を活性化させること」が狙いとされているが、まさにものづくりやサービスなどで生産的に働くものに重税を貸し、投機的なものを優遇するというとんでもない税制である。
企業としてはなるべく税金をはらいたくない。こういうスタンスにたって財界は、いっかんして法人税の引き下げを要求し、法人基本税率は九〇年代のはじめに四二%であったものを、現在では三〇%まで引き下げさせてきた。だが、政府や財界はこれでも国際競争力にうちかてないとして、今年度の税制改革では、企業の研究開発費や設備投資費などへの減税措置を導入した。
そして〇四年度からは、まずは資本金一億円以上の起業を対象に「外形標準課税」というものが導入される。その内容は図にあるように、法人事業税=企業の利益にたいする税率を現在の九・六%から七・二%へとひきさげ、そのかわりに企業がもうかっていようが、いまいが関係なしに、資本や付加価値(人件費、利子、地代など)にたいして税金をかける「外形標準課税」を新設しようというのである。これまでの制度であれば、赤字企業には法人事業税はかからなかったわけだが、今後は、黒字企業への税金を安くして、赤字企業からも税金をとろうということである。

いいかえれば、一部の黒字の企業にたいして減税する一方で、その分を赤字企業への課税、増税でまかなおうというものである。
当面は資本金一億円以上の企業だけが対象となるが、いずれその範囲をひろげてくることは確実である。日本の企業は約七割が赤字で、その九〇%が中小企業であるといわれている。結局は大企業に減税、中小企業に増税とならざるをえない。
これは、不況のなかで必死ではいあがろうとしている中小企業を蹴落とそうというものにひとしい。
今年度の税制改革では、親の遺産を子どもにひきつぐときにかかる相続税のみなおしも実施された。
その内容は、@親の存命中に資産を譲り受けた場合の贈与税と相続税を一本化して簡素化し、「生前譲与」がうけやすいようにする、A相続税の累進率を緩和する(表2)――という内容である。

この税制改革の一つの狙いは、高齢者層に集中している金融資産をはやめに現役世代へうつすことで、住宅投資や消費を刺激することになる。実際、三〇歳代後半の世帯主の平均貯蓄額は六五〇万円であるのにたいし、六五歳以上は二五六〇万円にのぼっている。また、累進率の緩和の面では、庶民のなかでも若干の資産を親からひきつぐできる人人にとっても多少のメリットはあるといえる。
だが、もっともメリットを享受するのは四億円以上の資産をひきつぐ人人である。遺産額四億円〜二〇億円の人は税率が六〇%から五〇%へ、さらに二〇億円以上の人は税率が七〇%から五〇%へとさがる。
税制改革論者はひごろ、「結果の平等をあたえるのではなく、機会の平等をあたえて、あとは努力して競争に打ち勝ったものが高い報酬を得ればよい」「努力して高所得を得たものに高い税金をかけたら、やる気をなくしてしまう」などといっている。だが、これらの高所得者の子どもたちは、たまたま金持ちの家にうまれたということだけで、おおくの資産を受け継ぐ条件にあり、より高度な教育や生活条件、さらにより高度なビジネスの条件にめぐまれている。「機会の平等」どころか、そもそも出発点から「機会の不平等」が生じているのである。相続税の累進率緩和はこの「機会の不平等」をさらに広げざるをえない内容をもっている。
これまでの税制は、「公平・中立・簡素」の理念をかかげ、「豊かなものから貧しいものへ」の所得を「再配分」する側面をもっていた。その第一の目的は、低所得者層の底上げによって国民全体の所得を向上させ、消費を刺激して、経済を発展させ、さらに国民全体の所得を向上させ、税収も増大させることにあった。第二の目的は、極端な貧富の格差を解消することで、階級矛盾を緩和し、資本主義社会の秩序を維持することであった。いずれも、資本主義の安定と発展のための税制の理念であった。
だが、こうした制度のもとで現在、一方では国と地方の財政は破綻状態となり、他方でグローバル化のもとではげしい国際競争にさらされている独占資本は、税の負担が競争力強化の「足かせ」であると考えはじめている。こうしたなかで、こんにちの税制改革は、これまでの税制の理念をかえて、大企業、独占資本、投資家、高所得者などを露骨に優遇し、それによって生じた税収減を労働者や中小零細企業、高齢者、女性などへの増税によってまかなう方向をうちだしているのである。
昨年の五月、日本経済新聞社の委嘱をうけて「民間有識者」が「民間の立場からの税制改革提言」を発表し、税制の理念を「公平・中立・簡素」から「公正・活力・簡素」に転換することをうちだした。
最初の「公平」を「公正」に変えたのはなぜか。提言は、「税の公平原則はじゅうらい所得再分配を通じた『結果の平等』という意味が大きかったが、これを『公正』原則、すなわち『努力に見合った成果』を保証する『機会の平等』をより重視した理念に変える必要がある。たとえば、金融所得を、従来のような『不労所得』としてではなく、『リスクに見合った所得』として位置付けることである」と説明している。
二番目の「中立」を「活力」に変えたのはなぜか。税制というのはだれの立場にも立たない「中立」の立場で構築すべきだというじゅうらいの建前を投げ捨てて、「活力」すなわち、大企業や独占資本が「活力」をもてる環境づくりという方向へ、大企業や独占資本の利益にたつことをもっと露骨に宣言しようというものであろう。
今回の税制改革について、個人商店の経営者であり、市民活動家でもあるB氏は次のように語っていた。
「要するに、労働者、農民、勤労市民、中小零細企業から既得権をうばい、増税することによって、大独占資本の国際競争に資金をつぎこもうというわけでしょう。これが国家財政上にあらわれた『グローバリズム』の姿だし、外交上にあらわれたのが『有事法制』だと思います。根っこはおなじです」
|
<シリーズ> |