労働者に自信と誇りを取り戻させ たたかう勇気を与えてくれる本

バーマン・アサド著 『ソ連はなぜ崩壊したのか−英雄的たたかいと苦い敗北』(スペース伽耶 星雲社〔発売〕 2300円(税別))

評者 菊池ゆうこ

『労働通信』2003年7月号

 私はこの本を多くの労働者、活動家の皆さんに読んでいただき、その感動を分かち合いたいと思っている。ソ連が崩壊して一〇年以上たったが、その負のイメージは多くの人々に焼きついて、意識するしないにかかわらず、今なお大きな影響を与えつづけているのではないだろうか。

 本書は著者が指摘しているとおり、理性的な歴史分析のなかに、巷(ちまた)にまんえんする否定的な感情をはいりこませないようにすることと、労働者階級の利益を見失わないようにするという姿勢が貫かれている。この点において、従来書かれてきたこの手の本が脱することのできなかった問題点を克服しているのである。

 現在、資本主義のグローバル化によってもたらされた世界的な破壊の深化――戦争、テロ、差別、貧困、失業等は、誰の目にもおおいかくせないようになっている。

 この本の書かれた目的は、「共産主義運動および労働者階級の運動がかつての力を取り戻し、現状を克服するための闘争において指導的な立場を回復するためには、歴史的な後退の原因・要因の包括的で説得力のある分析を呈示できるようにならなければならない。この非常に複雑な歴史過程のいくつかの側面に焦点を当てようとする一つの試み」なのである。そこには共産主義運動の未来にたいする希望の光とでもいうようなものが見えてくる気がする。

 第一部では、歴史分析における理論と方法論、分析のための視点等がかなり詳しく書かれている。第二、三部ではソビエトの歴史を具体的に提示し、分析している。社会主義国家がどのように建設されていったのか、そしてどのように崩壊をまねいていったのかが、外部的・客観的要因と主体的・内部的要因から記述されている。非常に興味深い内容で、社会主義(国家)についての認識、理解も深まるものである。

ソ連の建設と崩壊の道のり

 第二部、第三部で著者はつぎのようにのべている。

 一九一七年、ボリシェビキが社会主義革命に世界で初めて成功したとき、ロシアは先進資本主義国からはるかに遅れた後進国だった。ロシアの労働者階級は、社会主義建設の過程においてはじめから重い重圧と困難な責任を負わされていたのである。そして、革命の勝利後まもなくロシア領土に対する一四の帝国主義諸国による侵略と占領および白衛軍との内戦に直面した。この時期(一九一八〜一九二一年)、敵から社会主義国家を防衛するために「戦時共産主義モデル」を実施することを余儀なくされた。

 政治的軍事的目標が達成された後、一九二一〜一九二八年には経済的危機から社会を救う目的をもって「新経済政策」(NEP)が処方された。その後、一九二八〜一九四五年には「急速な工業化モデル」が続く。このモデルはのちに重要な問題をもたらしたが、対ファシズム戦争(ナチス・ドイツの軍事侵略)においてはソ連邦の英雄的な勝利をもたらし、ソ連共産党とソビエト国家にたいする大きな敬意と権威が創出された。そして、あの冷戦と軍拡競争の時代へ突入していくのである。

 一九五六年の第二〇回大会において、急速な工業化モデルによって生じた経済的・政治的諸問題の解決が提起されたが、これにたいしては形式的な追及をおこなうだけで、負の政策現象すべてがスターリンの個人崇拝によるものだとされた。(このことがスターリンへの個人攻撃を装った反共キャンペーンを遂行するためのまたとない機会を社会主義の敵に与えてしまったのである。)

 この時期「急速な消費成長モデル」が実施され、賃金の上昇と均一化がなされた。軍事部門においては成功を収めたが、政府の官僚機構内に腐敗と贈収賄の温床が生み出された。

 一九六一年の第二二回大会において、ソ連社会が発達した社会主義の段階に入り「共産主義社会の建設」への道を歩んでいると宣言され、ソビエト国家の性格をプロレタリア国家から全人民の国家に変更した。これは社会の現実に合致しない推論にもとづいたものであり、社会主義理論の観点からも客観的・歴史的見地からも間違いであった。党と国家の関係が逆転して、国家が党を支配することとなった。このことはプロレタリア指導部を著しく弱体化させ、国家官僚層の利害と見解が支配する状況をもたらしたのである。

 三〇年にわたる前衛党の誤りは深刻な危機を導いたが、レーニンは正しく強調している。「単に客観的な条件が存在するだけで、ひとりでに政治的危機そして社会主義体制の崩壊が導かれるわけではない。そのような展開に至るには社会主義の解体によって利益を得る者たちによる組織的で意識的な反社会主義動員を初めとした主体的な要因が存在する必要がある」

 第四部にはペレストロイカから崩壊までがえがかれる。アンドロポフが提起した改革は、社会主義を自己刷新し再編・再建する運動として出発したもので、これは正しく成果を上げていたのであるが、一九八六年の二七回大会において、官僚・テクノクラート層(ゴルバチョフとその同伴者の一団)が党指導部をのっとり支配権を掌握してしまった。そして、この党派は社会主義にたいするイデオロギー的・政治的・経済的全面攻撃を公然と開始したのである。帝国主義のイデオロギーが洪水のように流れ込んできた。最終的に一九九二年、ソ連邦は違法に解体されてしまったのである。

歴史的な総括の布石

 いくら党内での破壊活動の結果だとしても、ソ連の共産主義者たちは、なぜ帝国主義の代理人のするようにまかせ、その間違いを見抜けなかったのか、たたかうことができなかったのか、それだけ共産党は力を失っていたのか。

 旧社会主義諸国における出来事の経緯についての最終的な分析・判断はそれらの諸国において社会主義建設の過程に直接携わった共産主義者とその党にゆだねられなければならないと著者も述べているが、本書はその布石となるだろう。

 なによりこの本がすばらしいのは科学的歴史分析をすることによって、共産主義運動と労働者階級が自信と誇りを取り戻し、たたかう勇気を与えてくれる本だからである。

 最後に、この本の著者がアメリカの共産主義者であることをのべておきたい。私は帝国主義の根源・アメリカにこのように力のある共産主義者が存在することを知らなかった。

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