『労働通信』2003年7月号
有事関連三法案が六月六日、自民党、公明党、保守新党の与党三党に、民主党、自由党がくわわり賛成多数で成立した。この法案は、戦後の憲法第九条の「戦争放棄」の制約をうちくずし、アメリカ軍と一体となって日本の自衛隊を世界のどこへでも派兵し、軍事攻撃をいつでもできるようにするものである。さらに小泉内閣は、米軍占領下のイラクに自衛隊を派遣するためのイラク新法の成立をねらっている。
小泉内閣は、有事法制が必要な理由の一つとして、朝鮮民主主義人民共和国(以下北朝鮮)の「脅威」なるものをあげてきた。かつての「冷戦」の時代には、歴代の保守政権は「ソ連が攻めてくる」とさけびたて、旧ソ連がアメリカと協調体制になると「中国の脅威」をあおりたててきた。しかし、ソ連も中国も日本に攻めてきてはいない。北朝鮮についても、実際の経済力や軍事力からみて、日本を軍事攻撃する可能性はきわめて低いといわざるをえない。
むしろ、この間、イラクやアフガニスタンなど他国を侵略し、占領・支配しているのはアメリカである。アメリカは、第二次世界大戦後の教訓のもとに確立された国際法や、国連・国連憲章を蹂躙(じゅうりん)して戦争に突入した。イラクやアフガニスタンへの侵略の政治的目的は、あきらかに自国の経済危機の打開にあり(軍需産業大手や石油関連企業は活性化し株価は値上がりしている)、中東地域、とくにイラクにある石油資源の確保と中東地域の政治的な安定的支配の確立にある。アメリカは「イラクの独裁体制、大量破壊兵器の疑惑」をふりまいてきたが、これは侵略を正当化するための口実にすぎない。今度の有事法の立法化は、このアメリカの世界戦略に日本が積極的に対応するということである。
今回の有事関連法では、自衛隊を出動させる根拠となる「武力攻撃事態」の定義がまったくあいまいで、政府の勝手な解釈が認められるものとなっている。また、「武力攻撃事態の恐れがあると予測される事態」という、いっそうあいまいな規定ももりこまれている。それは、場合によっては「平時」であっても、政府の胸先三寸で有事法制の発動を可能とするものである。実際、石破防衛庁長官は、「北朝鮮がミサイルに燃料を注入した時点で、あるいは日本海側に艦艇が結集した時点で有事となる」とし、先制攻撃ができると説明している。
さらに問題なのは米軍との関係である。
先に制定された米軍支援の「周辺事態法」では、自衛隊は米軍の後方支援に徹し、実際に米軍がどんぱちやりはじめたら撤退する建前になっている。しかし、石破防衛庁長官が「『ここは危なくなりましたから、さようなら』といった場合、同盟国って何だろう。実際の現場でそれで本当にもつのか」と国会で答弁しているように、「周辺事態」と日本の「武力攻撃事態」「武力攻撃予測事態」が一体化され、今度のイラク攻撃のように、ありもしない「大量破壊兵器」の存在が「武力攻撃事態の恐れがあると予測される事態」とされ、自衛隊が米軍と一体になって海外への先制攻撃に出撃する可能性さえうまれているのである。

小泉内閣が有事法制につづいて立法化をねらっている「イラク新法」は、「人道・復興支援」を大義名分にしてイラクに自衛隊を派遣し、「非戦闘的地域」で米英などの占領軍の「後方支援」をするとしている。だが、外国の軍隊に占領されたイラクで、「戦闘地域」と「非戦闘地域」、「前方」と「後方」をわけること自体むずかしい。それは実質的に、これまでの枠をやぶって、イラクを占領・統治する帝国主義の侵略軍の一員として自衛隊の派兵を可能にする法的措置にほかならない。
有事法制は、米軍への軍事的協力とこれに国民全体を動員するという立法化であるが、それと同時に、日本国内における労働者階級と人民にたいする弾圧法でもある。
国会審議でだされた政府答弁では「武力攻撃の事態にたいしては、公共の福祉による基本的人権の制約もありうる」ことが明言されている。 すなわち、「有事」においては、国民一人一人の思想や信条にもとづく活動は禁止され、戦争反対は処罰されるということになる。航空、船舶、トラックなどの輸送関連の労働組合と労働者は、「有事」のさいには全面的に協力がもとめられ、すべての産業の労働者は職場で生産を強要され、労働組合と労働者は人民とともに戦争に反対する闘争ができなくなる。土地の収用にしても問答無用であり、紙切れ一枚で収用される可能性すらある。戦争非協力者には、罰則がくわえられるようになり、自衛隊が必要とする物資の保管を拒否すれば罰則――六カ月以下の懲役、三〇万円以下の罰金、土地の供用を拒否すれば二〇万円以下の罰金――がくわえられるといった具合である。
民主党の「修正要求」により、有事法制の条文のなかに「基本的人権の尊重」がもりこまれたが、どこまで実効性をもつかはうたがわしい。
これまで支配階級は、政治上でも経済上でも比較的「ゆとり」があるので、労働者と人民にたいして懐柔政策で危機的状況を回避してきた。しかし、危機的状態がうまれて物情騒然とするような闘争(ゼネストや政治デモなどによる)がおきると、支配階級や政府は、この有事法で「非常事態宣言」を発動して人民弾圧体制をとっていく可能性がある。この立法がこうした性質であることをみおとしてはならない。
このように有事法制はまさに戦争をやりやすくするための法律である。それは、朝鮮半島をはじめアジアにおける緊張を激化させ、戦争の危険性を高めるものである。
小泉内閣はアメリカの世界戦略にべったりの戦争政策を転換し、日朝国交交渉のすみやかな再開など、アジアに平和な環境をきづきあげていく外交政策をうちだすべきである。
なによりも重要なことは、日本の労働者が戦争に反対し、平和をもとめる運動をいく倍にも強めることである。有事法制は成立してしまったが、それを発動させないことも、世論と運動の高まりによっては可能である。イラク戦争反対でうまれた新たな反戦運動のパワーを、一過性の花火で終わらせるのではなく、継続的な運動へと発展させていくことがもとめられている。