『労働通信』2003年9月号
小泉内閣の「骨太方針」第三弾が発表されました。我々薬業界に関しては薬の無資格者販売という形で押しつけられております。早い話がアルバイトの学生しかいないようなコンビニでも薬を売れるようにするということです。もっと簡単に言うと薬のセルフ販売です。
坂口厚労相は反対です。医薬品を素人に売らせるなんてとんでもないという立場です。
それに対して石原行革担当相は規制改革委員会のメッセンジャーボーイです。そこで小泉裁定が下されました。副作用の心配のないものは医薬品のままセルフ販売してよろしい。具体的品目については協議をするという内容です。殆ど規制改革委員会の主張通りです。
ところで薬事法という法律があり、これにはちゃんとした設備と資格を備えた人がいない限り医薬品を販売してはならないと規定されています。そこで連中が持ち出してきたのは特例販売業という業態です。これも薬事法の条文の一つなのですが、医薬品の普及が不十分な地域に関して、品目を限って無資格者が医薬品を販売してもよいというものです。これを拡大解釈して適用しようと考えています。役に立ちそうなものなら手当たり次第かと情けなくなります。
医者はいない。薬屋は遠い。道は山道で自転車も通れない。それでも病気はいつ起きるか分からないといった時代の緊急避難的措置がこの業態なのです。現代に於いて、薬の安全使用という観点からも、この業態は縮小することはあっても拡大するなどということはあり得ません。
こういう時代錯誤の議論を持ち出すような人は、国民の健康などには関心がなく、ただただコンビニの扱い品目を増やしたいだけの人です。その証拠に薬の無資格者販売を最初に言い出したのは元ダイエーの中内功さんです。
本質的な話をします。
推進派の人達は副作用の少ない薬なら素人が勝手に服んでも問題はないと言います。つくづく薬のことが何も分かっていない人達だと思います。
薬は服まずに済めばそれにこしたことはありません。薬は本来毒なのです。従って副作用のない薬は存在しません。軽い副作用と重い副作用があるだけです。
体の調子の悪い人がいて、その人にはどんな薬が適当かと判断する為に専門家が必要になります。病気を治す手だての一つとして薬があるのです。病気を治すことが目的であって、薬を服むことが目的ではありません。つまりどの薬が適当か判断できない限り薬は服むべきではないのです。
運良く副作用が出なかったから間違った薬を服んだ直接の被害はなかったとしても、そのことによって病気への正しい手当が遅れることも大きな問題です。
ただただ薬で金儲けがしたいだけの人達です。国民の健康のためになんぞとおこがましいことを言わないで欲しいものです。

決め細やかなアドバイスをする薬局・薬店
推進派の人達は多くの国民が薬のセルフ販売を強く望んでいると言います。それを裏付けるアンケート結果を私も見たことがあります。
けれどもアンケートという奴は十分に注意をしなければなりません。質問の仕方によって答えが誘導されることがあるからです。そのアンケートの質問はこうでした。「貴方は風邪薬が必要な時にすぐ買えたらいいと思いますか」。言葉をかえればこうです。「貴方は必要なものが必要な時に買えたらいいと思いますか」。私でもYESと答えます。本来の正しい質問はこうあるべきです。「貴方は薬についても病気についても知識を持った人が誰もいないお店で薬を買いたいと思いますか」です。果たして何人の人がYESと答えるでしょうか。
私などでもお客様に対して、商売の性質上緊急な時は営業時間外でも遠慮なくお電話を下さいと言います。事実早朝に起こされたことが何度かあります。私などよりもっと親切な店は、シャッターの横の通りに面した場所にインターフォンを設置しておられます。私達が深夜に店を閉めてしまうことがそれ程多くの人々に迷惑をかけているとは私には考えられません。
最後の論点は私には気が重い話です。推進派の人達はこう言います。今でも薬の説明などされたことがないと。私としてはそんな出来の悪い店にばっかり行くからだと言いたいところですが、実際にそういう店は存在します。私達は大型量販店と呼んでおります。私達と違って広い売り場、明るい照明、安い価格の店です。そこでは説明どころかまさに薬のセルフ販売がなされています。
そんな量販店の社長が私にこう言いました。客が説明を見て勝手に薬を買っていくのだから、医療事故が起きてもそれは客の責任で店には全く責任がないと。
彼らの多くは薬剤師会にも入っていませんし、そもそも薬剤師不在の店も多いと聞いております。
そういう店があることを私は薬業界の人間としてお詫びいたします。
ただ私達はそういう現状を正すべく運動していることをご理解いただきたいと思います。大型量販店とたたかっていると言ってもいい状態です。
大型量販店も国策である規制緩和に乗じてはびこっております。従って私達の運動もなかなか効果を上げることが出来ません。そういったお恥ずかしい現実はあるのですが、だからといってそういう状態を更に拡大して良いという理屈は絶対に成り立たないと申し上げておきます。
訳知りの人はこう言います。住み分けたらいいと。危険を冒しても安い薬を手軽に買いたい人はそういう店で買う。ちゃんと自分にあった薬を服みたい人は相談できる店で買うという訳です。一見尤もな意見の様ですが、現実が観えていない。
私は賭けてもいいですが、規制改革委員会の目論見が実現すれば、皆様方が相談すべき薬局薬店は経済的に滅亡します。残るのはセルフ販売の店ばかりです。
規制改革委員会がセルフ販売を要求している薬のなかには睡眠薬や麻薬の入っているものがあります。用法用量を守れば危険は少ないのですが、例えば三日分を一気飲みすれば事情は全く変わってきます。麻薬本来の作用が出現します。夜中のコンビニにたむろしているような人達がその味を覚えたらと想像してみて下さい。
小泉内閣は無秩序で下品な社会を作ろうとしている。このことは薬業界に関することだけでも証明ができるというのが私の結論です。
