『労働通信』2003年9月号

 首切り、リストラと過重労働がくりかえされるなか、過労死やみずから命を絶ってしまう労働者が増えてきている。今回は、関西労災職業病研究会代表として、労災認定闘争の先頭にたってたたかっている豊田正義さんにインタビューした。

豊田正義さん

――自殺者や過労自殺者の人数はどのようになっていますか?

 自殺者は昨年だけで三万人、そのうち過労自殺は一六〇〇人から一七〇〇人であり、増加傾向にあります。労働災害の件数は横ばいですが、重大事故(工場の爆発事故)などが発生しており死亡災害は一六〇〇件になっています。

――過労死の労働災害の認定件数はどうなっていますか?

 過労死は昨年一万件ですが認定されたのはわずか一・六%にすぎません。しかし予算がないから認定しないというわけではありません。

――どういうことでしょうか?

 労災保険は事業主から徴収しますが、実際には年間で一兆円近くの資金が毎年余っているのです。これは公然たる秘密です。この資金がかつては資金運用部を通じて大企業の福利厚生施設建設資金に投入され、そこの施設に厚生労働省の役人が天下りしてきたわけです。

――ビートたけしの「TVタックル」で、雇用保険の保険料で無駄な施設をつくって、そこに厚生労働官僚が天下っているのを放送していました。それと同じですね。

 そういうことです。

脳機能障害が増大

――最近の労働災害の特徴はどうでしょうか?

 最近の労働災害は、労働者の魂までを破壊していくことになります。高次脳機能障害問題が最近の労働災害の焦点となっています。

 これは、二〇代、三〇代の交通事故に遭った人におおい障害です。そのときには何もおこらないのですが、その後に脳梗塞などの障害がおこります。三池の一酸化炭素中毒でもこの脳機能障害が明らかになりました。とくに頭部外傷事故の多い職場――たとえば、港湾・運輸・建設などでこの傾向が強いです。

厚生労働省調査(03年6月発表)


――いまどのような労災認定闘争をたたかっているのですか?

 茨木・高槻交通に勤務していたMさんの労災認定闘争です。本来なら今年の三月に審査請求の決定がでているのですが、まだでていない。?M?さんは交通事故で負傷し、そのときは何もなかったのですが、軽微な事故を多発するようになり、会社が「運転手としては不適格」と烙印をおして解雇し、労組も容認してしまった。しかし、Mさんの軽微な事故の原因は脳梗塞であり、これが高次脳機能障害の前兆だったのです。

――脳機能障害や心臓疾患を防ぐために一昨年から、二次健康診断等給付が労災保険で始まっていますが?

 二次健康診断等給付はあまり機能していません。定期健康診断で脳障害や心臓疾患がある疑いをかけられた労働者がいても、二次健康診断等給付を受ければ「会社にしれたらリストラになるかもしれない」として二次健康診断を受けない労働者がたくさんいます。また労働基準監督署がサービス残業の摘発をしようとしたら、労働組合が摘発を止めるということもあります。

 過労自殺では遺族があきらかにしない例がたくさんあります。ただ最近の裁判の例では弱い立場の労働者が自殺に追い込まれるという事実関係をあきらかにしはじめています。

 裁量労働制やフレックスタイムなども労働災害の多発に拍車をかけています。これらの労働制は勤務時間が分かりません。三菱重工神戸の事例では奥さんが夫の帰宅時間をカレンダーに書き込んでいたのが動かぬ証拠になりました。過労自殺や過労死はやはり労働者が精神的に追い込まれ、疲れているということになります。最近は精神に比重をおく労働が拡大されています。そして精神の疲労が蓄積されています。

 肉体的な疲労は、一杯飲んでぐっすり寝ればいやされますが、精神的な疲労はそうはいきません。もちろん肉体的な疲労による労災がないわけではありませんが、精神労働の比重が高いほど、過労死や過労自殺が多くなっていくのです。いま、労働者の六人に一人が「過労死予備軍」だといわれています。

労働者の尊厳をかけたたたかい

――最近の労災認定闘争をたたかってどう思われますか?

 労働組合としてたたかうという視点が弱まってきていますね。ただ、個人の権利という面から見れば権利意識が向上して、労災認定の動きがすすんでいます。しかし日本の労働者の位置は世界的に見てはるかに低い。三池の労働者の死亡災害の賠償は四〇〇万円で一年間払い。アメリカの二三才の青年労働者が工場で死亡したときの賠償が二億四〇〇〇万円。日本では労働者の権利が低い。過労死があるのは日本だけ。労災闘争は労働者の尊厳をかけたたたかいです。

 リストラで労働者が減っています。そして残った労働者への負担がだんだん重くなっています。「去るも地獄・残るも地獄」と三〇年前の三池の状況が全国化しています。

 最近、トラック事故が多発していますが、この背景には過重労働、運賃のダンピング、低賃金という問題があります。

 兵庫県では五〇歳代で教師も肩たたきされています。そしてその穴埋めは「代用教員」です。パート・アルバイトの活用です。規制緩和と「新時代における日本的経営」(財界の労務政策)が今の労災の状況を生みだしているといえるでしょう。

――ありがとうございました。

 

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