変化する労働力の構造

『労働通信』2004年1月号

 産業構造の変化にともない、労働者が置かれている状況も大きく変化している。シリーズ「構造改革マンダラ」の最終号として、今回はこの問題を考えてみたい。

 

 記者はある大手電機メーカーの工場の話を聞いて、思わずうなってしまった。本工労働者が約六五〇人にたいして、派遣・アルバイトが一〇〇人、有期社員が五〇人、準社員が三〇人……。ここまではよくある話だ。ところが、本工六五〇人の内訳をみると、現場は二〇〇人だけで、のこりの四五〇人は管理部門・事務部門・研究開発部門などのいわゆるホワイトカラーで、こちらの方がおおいのである(19ページの記事参照)

 結局、正規雇用の社員は企画・立案や研究開発、現場の基幹的な部門だけにかぎられ、現場の主力は臨時やアルバイト、期間社員などがにない、研究員などの専門的分野も期間社員や派遣労働者がになう――という構図が生まれているのである。

大きく変わる労働力構造

 これは、産業の知識化、サービス化、情報化、国際化がすすむなかで、労働力の構造がつぎのように変化していることとかかわっている。

1、労働の質の面から見ると、高度の専門的知識や技術が求められる労働や、企画・立案能力が求められる労働が増えている。一般的なルーチンワークの分野でも最近では、最低限のパソコンの知識などが不可欠となっている。

2、労働の分野の面で見ると、生産部門の比重が低下し、非生産部門が増えている。この非生産部門のなかには、経営管理・企画立案部門、研究開発部門、一般事務部門、サービス・販売部門などがふくまれている。

 この1、2の変化をイメージ化すると、図1のようになる。

 この図と「職業別就業者数」の時系列データ(下の表)をつき合わせながら、その内容をもう少し見てみよう。

生産部門

 生産部門は、図1でいえばAとCにあたる部分である。就業者全体のなかで生産にかかわる就業者(製造・制作・機械運転および建設作業者)の比率は、一九六〇年の二八・八%から八〇年までは増大してきたが、八〇〜九〇年代には減少に転じ、二〇〇二年には二三・二%まで減少している。

 同時に、この製造部門で働く労働者の中身も多様化している。

 たとえば、東ソー南陽工場では、新たに導入されたコンピュータ制御システムにともない、コンピュータでプラントを制御・管理する労働者とパトロールや現場作業の労働者とをわけ、さらにこの現場作業労働者を外注化して、賃金の安い労働者にかえていこうとしている。このもとで、コンピュータでプラントを制御・管理する労働者には比較的高度の知識が求められている。

 IT化の進展によって定型的な業務については大幅に省力化、標準化することができるようになる一方で、現場の労働者であっても、必要な情報を検索、収集し、整理したうえで、あらたな仕事の計画をみずから企画・立案し、実行していくような仕事や、「創意工夫」「個人の仕事の裁量性」を必要とする仕事がふえている。

非生産部門

 非生産部門は、図1でいえば、BとDにあたる部分である。この非製造部門にたずさわる労働者の比率は増大している。
 だが、一言に「非生産部門」といっても、そこには、@経営管理・企画立案部門、A研究開発など専門分野、B一般事務部門、Cサービス・販売部門の労働者が含まれているので十把ひとからげにとらえることはできない。

@経営管理・企画部門の労働者

 労働力調査の「管理的職業従事者」の比率は、六〇年に二・一%であったが六〇〜七〇年代と増加し、八〇年には四・〇%へと倍増した。しかしその後、情報化の進展で「中間管理職のリストラ」がすすんだせいか、二〇〇二年時点では三・〇%に減少している。

 この部門の労働者の数は少数であるが、内外の競争が激化するなかで、情報をいち早く収集、整理し、経営戦略や社内管理戦略を創造的に企画・立案し、着実に成果をあげていくことが求められている。過労死がおおい分野でもある。

 A専門分野の労働者

 労働力調査の「専門的技術的職業従事者」は一貫して増大し続けている。比率では一九六〇年の五・〇%から二〇〇二年には一四・一%へ増大している。

 その実数を製造部門の労働者と比較すると、一九六〇年には製造部門の労働者一二七九万人にたいして、専門的技術的職業の従業者が二二〇万人であったのが、二〇〇二年では製造部門一四六八万人にたいして、専門的部門八九〇万人となっている。

 グローバル競争が激化するなかで、情報技術、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、環境技術をはじめとする先端的な科学技術を導入して競争力の強い製品を開発したり、経営の神経となる情報システムをいち早く開発する技術者が必要となっている。さらに知的財産の保護をはじめとする法律知識をもった専門家も必要となっている。

 大企業の新卒技術者の採用戦略でも、理工系については四年生大学卒から大学院(修士課程)卒の採用へと重点をシフトしている。

 この部門の労働者はきわめて高度の能力が要求されている。
(本誌2002年11月号「急速に変化する技術についていくか、それとも失職か」参照)

 B一般事務部門の労働者

 この労働者のおおくは、総務や営業、経理などの事務をになう労働者で、就業者のなかの比率でも一九六〇年の一一・二%から二〇〇二年の一九・四%へと倍増している。

 そこでの特徴は、女性の比率が高まっていることである。この部門の女性の比率は、一九六〇年では三九・二%だったものが、二〇〇二年には六一・三%へと過半数を超えている。これらの女性労働者のおおくが、補助的な事務作業をになう労働者で、そのおおくがパートやアルバイトなどである。

 しかし、これらの事務労働者でも、最近では、ワード、エクセル、インターネットなどの基本操作ができることが不可欠となっている。

 Cサービス・販売部門

 この部門の労働者も増大し、しかも多様化している。このなかには営業マン・営業レディー、店員などがふくまれる。消費購買力が低下し、「モノがうれない時代」にはいったいま、この部門の労働者にもノルマや精神的負担がかかっている。
(本誌2001年7月号「売上が減ったのに利益を大幅に増加させたデパートのからくり」参照)

財界の労働力政策

 このような労働力構造の変化に対応して、財界は新たな労働力政策をうちだしている。それが本誌でも何度もとりあげている、「新時代の日本的経営」(九五年・旧日経連が発表)という政策である。

 その内容は、労働者をつぎの三つのグループにわけて管理しようとするものである。

  1. 経営戦略の企画立案や管理などをおこなう少数の基幹社員を中心とする「長期蓄積能力活用型グループ」。雇用形態は正社員で、賃金は成果・実績主義
  2. 専門的技術をもつ労働者は「高度専門能力活用型グループ」。雇用形態は契約社員や派遣などの有期雇用契約で、賃金は成果・実績主義
  3. その他の大多数の労働者は「雇用柔軟型グループ」。雇用形態は、臨時、パート、派遣などの有期雇用で、賃金は時給制が中心。

これらを図1と重ね合わせると、図2のようになる。

 その第一のねらいは、経営戦略を立案したり企業の管理をおこなう一定数の人材は正社員として確保する一方で、大多数の労働者は、資本家が必要なときに、必要な数だけつかえる低賃金労働者としてしぼりとることである。高度な専門能力をもった労働者についても期間限定で資本が必要なときだけつかうというものである。

 第二は、年功序列型賃金ではふくらみがちな賃金にたいする支出額全体をへらすこと、つまり労働者階級全体への賃金きりさげと低賃金構造をつくりだすことである。企業の基幹業務をになう正社員や専門職についても、一定の「高給」は保証されるものの、成果・実績をきびしくもとめられ、成果があがらなければ大幅な賃下げが待っている。

労働法の改定

 労働法も、こうした労働力構造の変化と財界の戦略にそって改悪されてきた。

有期雇用労働者の雇用契約期間

 労基法第一四条では、パートや臨時、派遣などのように有期の雇用契約をむすぶ場合は、その雇用契約の期間は最大限一年以内とされてきた。だが、「新時代の日本的経営」でいうところの「高度専門能力活用グループ」の労働者を活用して三年、五年という単位のプロジェクトを遂行していくには、一年単位の雇用では不都合となってきた。

 そのため、九八年の労基法の改定では、@新製品・技術開発に必要な高度な専門知識・技術を有するもの、A事業の開始、転換、拡大・縮小等の業務に必要な高度な専門知識・技術を有するもの、B満六〇歳以上の労働者に限って、三年単位の雇用契約を結べるようにした。

 さらに〇三年の労基法改定では、@現行の原則一年を三年に、A専門知識をもった労働者や高齢者については三年を五年に延長された。すなわち、どんな労働者でも三年〜五年の期間限定で雇用し、その後、都合が悪ければ雇い止め=解雇できる仕組みをつくったのである。

 だが日本経団連はさらに、「五年契約をだれとでも締結できることを基本とすべきだ」と要求している(二〇〇三年度規制改革要望)。

裁量労働制の対象労働者の拡大

 裁量労働制は、かつては新製品・人文科学系の研究開発、記事の取材・編集、情報システム設計など、専門性の高い業種を中心に一一業種のみに認められていた。だが、九九年の改定では、企画、立案、調査、分析をおこなう本社等の「企画業務」にもひろげられた。さらに〇三年の改定では、本社以外の支社、支店にもひろげられた。


 新時代の「日本的経営」でいうところの、「長期蓄積能力活用グループ」と「専門能力活用グループ」全般に裁量労働制を拡大したこととなる。

 だが、それでもあきたりない日本経団連は、裁量労働制の対象業務を営業職などへも拡大することを要望し、導入・運営手続きのいっそうの緩和も必要とした。さらにホワイトカラーには、労働時間にかかわる労基法の規定を適用しない「ホワイトカラーイグゼンプション」の導入も求めている。まさに過労死路線である。

派遣労働の拡大

 派遣労働は、かつては二六の専門業務だけに認められていたが、九九年の労基法改定で、物の製造、建設、港湾運送、警備、医療など五業務以外はすべての業種に認められるようになった。さらに〇二年の改定では専門二六業種については三年間の派遣契約も認められるようになった。つまり、かつては「専門能力活用型」だけに認められていた派遣を製造部門をのぞくすべての部門にひろげてきたということになる。

 さらに日本経団連は今後、派遣が禁じられている「物の製造」と医師・看護婦の派遣を全面解禁するようせまっている。派遣期間についても業務ごとに期間制限を設けるのではなく「期間制限は原則撤廃すべき」としている。

 このように見てくると、財界は、産業の知識化・サービス化・情報化のもとで、高度な専門分野で生まれてきた派遣労働、裁量労働制、三〜五年の有期雇用などを、まずその分野で法的に認めさせながら、しだいにそれ以外の分野全般に広げてきたことがわかる。(図3)

 たしかにこれらの専門的な職業では、仕事の性質上、従来のワークルールだけではうまくいかない場合もおおい。たとえば、ソフトウエア労働者の世界では、おなじ労働時間でも、効率よく仕事をする労働者にはどんどんと仕事が集中し負荷が重なり、他方、効率のよくない労働者は少ししか仕事ができないにもかかわらず、両者の賃金が同じなのはおかしい、といったことが議論される。このことは、単純に労働時間だけで労働を評価できないという問題もうみだしている。

 だが、このことをもって、これまで労働者のたたかいによって積み上げてきた労働基準をなし崩し的に破壊していくことは許されない。財界の攻勢にたいして、労働者階級の立場から、労働構造の変化に対応した新たなワークルールをうちたてていくことも課題となっている。

<シリーズ>
構造改革マンダラ
@社会保障制度改悪・1(2003年3月号)
A社会保障制度改悪・2(2003年5月号)
B税制改革(2003年7月号)
C地方分権(2003年11月号)
D労働構造(2004年1月号)

 

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