「労働通信」2004年1月号
04年「春闘」は、労働側にとって、いままでとはちがって非常にきびしいものになるであろう。それは、経営・資本側の労働者への攻勢が非常につよまったにもかかわらず、労働側はそれに対抗するだけの組織力を有効に発揮することがむずかしく、また組織の縮小にも歯止めがかからず、きわめて不利な状況がつづいているからである。しかし、今「春闘」が今後の労使関係、いいかえれば労働者階級と資本家階級の力関係を決定づけるうえで非常に重要なものになることはあきらかである。今後それは、労働者の生活水準がよくなっていくのか、ますますわるくなっていくのかということでもある。
はげしくなる地球規模の国際競争、低迷する景気動向、そして出口のみえないデフレスパイラルなどのきびしい経済情勢を反映して、労働組合のたたかいはきわめて困難な状況におかれている。
国内の失業率は依然として五%を超えており、二〇〇二年の完全失業者数は三五九万人(前年比一九万人増)となり過去最高を更新した。長期失業者も増加しており、二〇〇三年一月〜三月期において失業期間が一年以上の労働者が一一二万人(完全失業者の三〇・九%)を占め、長期失業率(長期失業者の労働力人口に占める比率)も一・七%となっている。一方、就業者人口にしめるパートや非正規従業員などの不安定な雇用形態に従事する割合は、一九九〇年の一四%から二〇〇一年には二六%へとますます増加し、二〇〇三年にはパート労働者の人口は一二〇〇万人を超えている。また、若者のフリーター人口も一〇年前と比べると二倍の四一七万人に達している。
それらの大半は、安定した職業につくことを望んでいるにもかかわらず、財界や厚生労働省は、「個人のライフスタイルやはたらき方の多様化」という言葉でかたづけようとしている。労働者の生活水準は、悪化しつづけており、二〇〇二年の現金給与総額は前年比二・四%減と二年連続して減少している。さらに、各種社会保険料の値上げにより可処分所得はますます減少しつづけている。

労働現場では、いわゆるホワイトカラーの人口比率が増える一方で、裁量労働制や成果主義的処遇制度の不健全な運用により、労働者への長時間労働、サービス残業そして過度の精神的負担が強いられている。その結果、過労死にくわえ過労自殺が増えるとともに、鬱病(うつびょう)などの精神的ダメージをうけている労働者もあとをたたない。
連合は、04「春闘」の運動課題として、@安心と信頼の年金改革の実現、A中小・地場組合への交渉支援と共闘の強化、B労働時間管理の協定化と賃金不払い残業の撲滅、Cパート労働者をふくむ企業内最賃の協定化、D賃金カーブの確保と純ベア要求を設定する組合のベア獲得、など五点をあげている。
賃金要求では、まず「すべての組合は、賃金カーブ維持を最低限の要求としてその獲得をめざす。さらに、生活向上と格差の是正をめざす組合は、純ベア要求の設定とその獲得にとりくむ」としており、「経営側の賃金抑制ときりさげ攻撃をゆるさず、所得と生活の低下に歯止めをかける」ことをかかげている。まだ労働組合組織が脆弱で、小規模の中小・地場組合については共闘の強化を呼びかけている。
一方、パート労働者などの組織化を積極的に推進し強化することもかかげている。これは、労働組合の組織率が二〇%をきったことへの危機感のあらわれであるが、ますます増えつづけるパート労働者や非正規従業員を組織することは、運動の活性化をはかるうえで急務の課題といえるだろう。雇用人口が減少し、またユニオンショプ制の主構成員である正規従業員が減少するなか、労働組合の組織率を維持し回復させるためには、労働組合の政策・制度そのものの転換がせまられることになる。いままでは、どちらかといえば大企業よりの政策が議論されるなかで、今「春闘」の方針が中小・地場組合の強化と未組織労働者の獲得という観点が強調しはじめられていることは注目すべきことである。
「春闘」に対応する経営側の指針となる日本経団連の『経営労働政策委員会報告』によると、成果主義型賃金制度への全面的な転換を推進し、賃金水準のひきさげもあり得るとの強力な姿勢をうちだしている。この報告では、「賃上げ率・額や水準の社会横断化を意図して『闘う』という『春闘』はすでに終焉(しゅうえん)した」と、昨年にひきつづき「春闘終焉」の宣言をしている。そして、企業の存続と雇用維持のため「一律的なベアは論外である。賃金制度の見直しにより定期昇給の廃止、さらにはベースダウンも労使の話し合いの対象とする」としている。
こうしたことから今「春闘」では、経営者側が前代未聞の大攻勢をかけてくることはまちがいないであろう。一九九五年に日経連がうちだした「新時代の『日本的経営』」路線のなかにある「雇用ポートフォリオ」という考え方がますます鮮明になりつつある。つまり、「労働者を必要なときに雇用し、必要なければ解雇する」、雇用も解雇も自由の形態にするという政策への集大成にしようとしている。これは、労働者を@長期蓄積能力活用型グループ、A高度専門能力活用型グループ、B雇用柔軟型グループの三つにわけ、正社員として雇用するのは全体の二割におさえ、八割は不安定雇用労働者にして雇用も解雇も自由にできるようにするというものである。この内容は、すでにかなり進行している。さらに、経済のグローバル化を背景にして労働市場を国際的な競争のなかにくみこみ、国内労働者の賃金の抑制をおこなおうとしている。

経営・資本側は、国際競争のなかで自らの生き残りをかけて、なみなみならぬ決意で今「春闘」にのぞんでいる。労働組合は、今「春闘」が今後の労資の力関係を決定するものであり、これまで以上に重要なたたかいであることを十分に理解しのぞむべきである。
04「春闘」に向けて
以上みてきたように、労働者をとりまく環境はきびしく、また組織化された労働者の比率は年年減少していることなど、労働側が劣勢にたたされていることは誰の目にもあきらかである。しかし、それをくい止めなければ労働者に未来はない。そのようななかで、まだ少数ではあるが職場や労働組合内部において、下部組合員、現場労働者の組織活動をつうじて労働運動の再建をめざす新たな運動が生まれつつある。経営側は、「闘う春闘」は終焉したと豪語しているが、はたしてそれは本当なのだろうか。労働者の現状、労働実態などをみると、まだまだ要求したたかわなければならないものはたくさんある。今「春闘」をとおして、もう一度原点にたちかえり労働者一人一人が考え、行動できる労働運動のあり方を考えようではないか。
現在の「春闘」は、大手企業の労働組合が主導権をにぎり、ひとにぎりの組合幹部によって活動方針が決定されている。本来ボトムアップ(下から上へ)による現場からの声を方針にしていかなければならないものが、トップダウン(上から下へ)による方針決定になってしまっているのが現状である。このことは、下部組合員、現場労働者が自分自身で考えて行動するという機会をうばうことになり、労働者が「春闘」自体を「人まかせ」にするという状況をつくりだしている。その結果、労働者一人一人が考え、意見をだしあい、討論をつうじて団結し行動するという労働運動の力の源泉をうばうこととなっているのである。これが、労働側が劣勢にたたされている最大の要因ではないだろうか。
労働者は、今「春闘」にのぞむにあたって、自覚をもって以下の実践をとりくむことを提案したい。とくに、労働組合の役員、活動家が、積極的に下部組合員や労働者にはたきかけることが重要となっている。
@まず、自分たちの生活を分析すること
なぜ生活が苦しくなっていくのか。実際の自分の収入や支出にたいする分析をしてみよう。すると、どこが増え、どこが減っているのか、そして何が生活を圧迫しているのかがみえてくる。賃金のきりさげげだけでなく、社会保険料の増大や各種手当ての削減による減収がみえてくるはずである。
A実際の生活にてらしあわせて生活にかかわる諸制度の仕組みを学ぶこと
会社の賃金制度、諸手当、福利厚生についてはもちろん、年金制度などの社会保険、将来の退職金制度などについての理解をふかめることで、労働者からみた矛盾点、労資間の矛盾がみえてくるはずである。
B労働者と経営・資本の立場を明確にし、労働者の立場で思考することを学ぶこと
労働者と経営・資本の立場はあきらかにことなっている。それぞれの立場を明確にして思考することで労働者としての方針が明確になってくるはずである。
C一人一人が意見をもち職場代表をつうじて労組方針への提言をおこなうこと
心のなかで思い、つぶやくだけではなく一人一人が意見をだしあいそれを実現するためにはどうすればよいかを考えること。そして労働組合をつうじて行動することを学ぶことが労働組合に力をあたえ、より信頼のおける組織へと発展させることができるのである。
D組合民主主義をおしすすめること
一部の組合役員に組合運営をまかせるのではなく、組合員一人一人が組合を運営する当事者として労働組合活動に参加し、民主的な組織をつくっていくために奮闘することである。
E未組織労働者を組織化すること
パート、臨時、派遣労働者をはじめ立場のよわい未組織の労働者を労働組合の一員にくわえることにより、さまざまな立場におかれた労働者の現状を学び、組織を大きく強化していくことができる。
F労働と賃金の性質を一面的に歪曲してとらえるのではなく、総合的な理解をふかめること
賃金は労働力の再生産費であることを理解すること。この理解なくしては、全社会的観点からみた、生産性の向上も、企業の発展もあり得ない。
G大衆運動としてのたたかい方を学ぶこと
大衆運動によるたたかいがもっとも有効的で、その力で現状が打開できるということを理解すること。一部の組合役員だけで交渉し、経営側の要求をのまざるを得ない状況がしばしばおきるが、このことは下部の力、大衆的な力がよわいことによるものである。それを理解しなければならない。
H一企業、一産業だけのたたかいでは不十分であることを理解すること
複雑にからみあう政治・経済構造のなかでは、一企業、一産業だけでは解決しえない問題がたくさんある。それゆえに、企業、産業の枠を超えた組織間の共闘が重要になってくることを理解すること。
I経済闘争だけでは生活をもまれないことを理解すること
労働者の処遇だけを問題にした経済闘争だけでは、生活はまもれないことを理解し、政治への関心を高めること。現在の政治を牛耳っているのは、まさに労働者が春闘でたたかう相手側であることを理解すること。
J現在の政治体制での限界性を学ぶこと。
活動をとおしてぶつかるさまざまな問題がある。すぐ解決できるものもあれば、時間を要するものもある。それらの問題に対処していく過程で、現在の政治体制ではどうしても解決できないものがみえてくる。「資本主義なのでしょうがない」とあきらめるよりも、それを現体制の限界性を学ぶチャンスとすること。
以上のことを問題意識としてもって、労働組合の役員、活動家は組織内労働者の実際の状況、意識水準を分析したうえで、労働者の切実な要求をくみとり実現する術を労働者とともに考えて行動すること。そして、あらゆる職場で積極的に現場からの運動をつくりあげていくこと。これらを「春闘」という一年でもっとも階級同士がぶつかりあうイベントを精一杯たたかうことであり、このことをとおしてはじめて労働者の政治意識をより高い水準にひきあげることができる。
こうしたことを持続することにより、低迷する労働組合運動を再生していこう。