「労働通信」2004年5月号
NTTは、公社から民営にうつって一八年目をむかえている。現在、NTTグループ全体では、二〇万七三六三人の従業員がはたらいている。民営化以来、NTTは一貫してリストラ「合理化」をすすめ、いまではNTTグループの連結決算で一兆四〇五〇億円の経常利益(二〇〇三年三月期)を計上するまでに成長し、内部留保金七兆四二三一億円(同)をためこんでいる。
その現場の実態を取材した。
NTT東日本とNTT西日本では二〇〇二年四月、IT革命のために電話事業にかかる総人件費を減らす目的にたって、五〇歳定年制と地場賃金(大都市と地方都市のちがいで賃金に格差を設ける)をもちこみ一五%〜三〇%の賃下げを五〇歳以上の労働者におしつけ、新たにたちあげた子会社に五〇歳以上の社員を在職再雇用という方法で吸収した。このため本体ではたらく労働者は、そのほとんどが五〇歳以下で構成され、事実上五〇歳定年制がしかれた。この二年のあいだリストラ「合理化」が急速に進行し、職場状況は一変し、労働実態、雇用構造がさまがわりの様相を呈している。その特徴は、五〇歳以上の社員を再雇用という方法で子会社に吸収し、労働者の下降移動をすすめたことである。

東西に分割された地域会社ではたらく約一一万人の労働者は二〇〇〇年一月、NTTから「雇用形態選択」をせまられ、NTT労組との合意のもとでそれが実施された。
その内容は、@六〇歳定年まで雇用されるが全国どこでも配転に応じる、A五〇歳でいったん退職して、子会社に雇用されるが、これまでの賃金の二〇%〜三〇%をきりさげる、B五〇歳でいったん退職して、子会社に再雇用される(そのさい一時金をうけとる)――という三つのいずれかを選択するというものであった。
この対象になった九七%の労働者が、このAを選択して退職金をうけとり、これまでの賃金の三割削減で再雇用されるという道をえらんでいる。
退職金をもらっても、一五〇〇万円〜一八〇〇万円で、再雇用されてからの賃金は二二万円〜二五万円程度にしかならないという。五〇歳前後といえば、子どものための出費がかさむ時期にも遭遇しており、この生活の急激な変化は労働者の生活を直撃することになる。
その子会社は、電話設備の現場業務全般と大口法人をのぞいたすべての販売業務をNTT本体からきりはなし移行させたものである。情報・通信機器やそのサービスの販売(一〇回線前後の小口ユーザーから数百回線をつかう大口ユーザー。毎月数千万円の通信料を使用する利用者へのサービス)を受けもつNTTマーケティングアクト、情報通信設備の修理や保守・ブロードバンド通信にむけたシステム構築などをおこなうNTTネオメイトをつくった。さらにNTTは、このほかにNTTコミュニケーションズ(国際的関係)、NTTコムウエア(通信用大型ソフト構築) NTTドコモ、NTTデータ、NTTファシリティーズ(建設・設備)などをつくっている。いまでは、NTTはそれぞれをグループとしてくみこみ情報通信産業における巨大企業を形成した。
NTT問題をはっきりさせるためには、ドコモがどうなっているかを知ることも重要である。
携帯電話の加入者数は、現在では四五〇四万二〇〇〇加入(PHSふくむ)で、固定電話六〇五三万八〇〇〇加入に迫るいきおいである。それにともなって、携帯電話の販売店も全国いたるところにつくられている。
ドコモは、NTTグループのドル箱である。全国で九ブロックに分社されていて、大都市圏をのぞけば各県に一つの支店を設置して営業している。ドコモでは、現在約四万人がはたらいているが、NTTドコモの正規社員は約一万二〇〇〇人で、あとはほとんどが派遣社員やパートである。
ドコモでの仕事は、携帯電話やPHSの新規販売や機種の変更はもちろん、一般の代理店ではできない解約や料金収納、故障受付などの各種顧客サービスを直接窓口でうけつけ、端末コンピューターに顧客情報を入力し、携帯電話の番号を入れたり消したりする仕事をしている。
正規社員の三倍ちかくの派遣社員、パートも正規社員とおなじ仕事をしている。派遣やパート社員は、正規社員にくらべ賃金は低く、雇用は不安定で労働条件にも格段の差がある。ドコモの場合は、年中無休で夜も営業している。派遣やパート社員が早番と遅番にわかれて出勤している。ある地方のドコモショップでは、日勤勤務は、時給が九〇〇円で夜勤と土日出勤が一〇〇〇円になる。正規社員以外は、ボーナスもないにひとしい。
ドコモの新製品や販売キャンペーンにあわせて目標を突破したら「お食事会と金一封」という具合でお茶をにごしている。せこい話しではあるが、こんなかたちで実績・能力主義的なものをもちこんでいる。
NTT労組組合員
NTTマーケティングアクト関西では、四〇〇〇人の従業員のほとんどが五〇歳以上の労働者である。ごくわずかいる四〇歳代後半の労働者も西日本各地方のNTT本体から出向者として派遣されている。
五〇歳以上の労働者はNTT本体の労働者よりも賃金が三割安くなっている。毎月の手取りが二〇万円から二五万円にしかならない。そして、ボーナス(本体の労働者は年間四・五カ月は)は、ひきさげられた賃金の二%から六%にしかならない。NTT本体を退職時の退職金は家のローンや子どもの学費のローンなどでほとんどつかいはたしている。
この子会社では、六〇歳が定年制になっている。そのあとは、年金支給年齢まで新たに契約社員としてつとめられるようになっているが、賃金は時給制で一時間八七五円、一カ月の手取りは六万〜七万円だ。その契約がきれたあとは失業手当ももらえなくなっている。この賃下げは、生活に重大な変化をもたらし、みんなが苦労している。
それともう一つのことは、仕事のことである。NTT労働者は、仕事のうえではブロ―ドバンドや光契約(Bフレッツ)、ADSLの契約などそうとう高いレベルの知識が必要になる。
大変なことは、広域配転で地方から関西に出向できた人たちだ。かれらは、九州のNTT本体からきているものがおおい。ほとんどが四〇歳代、単身で出向してきている。大学生、高校生などの子どもをかかえ、精神的な変化が大きい年代なので心痛している。
しかも知らない土地にきて、それぞれ担当のユーザーをまわりBフレッツやADSLの契約をとらなければならない。都会と地方では土地勘がちがい、また距離感もちがい、交通事情もちがう。そして言葉もちがうなど精神的にも追いつめられていく。出向期間がおわれば五〇歳定年がまっている。
さいきん、ある労働者が脳血栓をおこしたが、これに対応した課長は「病気持ちをよこすな」と、まったくけしからん発言をしている。
この間、NTTは、グループ全体で膨大な利益をあげている。携帯電話をはじめパソコンなどの電気機器は、売れ行き好調となっており。電機独占メーカーもぼろもうけし、日本経済の景気回復を牽引している。しかし、労働者は、市場競争のなかで苦難をおしつけられている。民営化されて情報・通信産業の市場が拡大され、ドコモなどNTTグループへの就職機会が拡大されたが、増えつづけているのは賃金の低い不安定雇用の労働者ばかりである。
やはり、重大なことは、おなじ仕事をしても本体と子会社のものが賃金をふくめ労働条件、待遇面で格段の差がついていることである。 ドコモの臨時、派遣社員が生活するのは大変だ。結局かれらが、生活を維持しようとする収入を得ようと思えば、長時間労働をするしかない。朝一〇時出勤、夕方五時までの勤務のときは、窓口がいそがしいとそのまま夜の九時ちかくまで居残り、一〇時間〜一一時間労働をしている。また、休日のときや夜に他の職場で短時間のアルバイトの仕事をするものもいる。
こうしたこともNTTがぼろもうけした背景の一つとなっている。