| 職場と労働法相談コーナー |
| ここに掲載したのは、「労働通信」ホームページにメールでよせられた相談の内容です。 |
| 相談 |
私は、今月で職場を辞めることになりました。もちろんオーナー(雇い主)ともきちんと話合ったうえでの退職です。
ところが先日、先月分の給料をもらった時に、いつもより6万円もおおくひかれていました。オーナーに問い合わせたところ、「不動産屋から請求がきたからひいた。本当は12万だが、2回にわけてさしひくから。請求書を見せようか?」といわれました。じつは、私は勤務地が自宅から遠いので、近くにアパートを借りて住んでいます。敷金・礼金は会社持ちで、「半年以内に辞めれば払ってもらう」とのことでしたが、勤務して3年になるのに、事前に何の話もなくひかれていたのです。
あまりにも変だなと思い、不動産屋に問い合わせしたところ、「請求しておりません。敷金のなかから清掃等をおこないますし、鍵の取り替えは後で実費を請求します」といわれました。そのことをオーナーに話すと、「まだ請求されてない。請求されたときには辞めて居ないだろう! だから先に給料からひいたんだ!」というのです。「請求されてもいないのに、12万円という金額がどこからでてきたのですか」聞くと、「たぶんそれくらいだろうと思ってひいた」と答えました。
私は納得がいかず、「給料からひいた6万円をかえして欲しい」といいましたが、オーナーは「払ってあたりまえだ」といって、とりあってくれません。
給料は税金・家賃等引かれて、手取りで10万超えるくらいしかないのですが、今回6万円も引かれて、4万円ぐらいしかもらってないんです。いくら1人暮しといえど、食費・光熱費等かかるし、生活していけない。
そのうえオーナーは、自主退社なのに「解雇」だと他の従業員にいっています。わたしは、「それなら、解雇でもかまいませんよ」というと、オーナーは「書類上は自主退社、事実上クビだ!」の一点張りで話合いにもなりません。
これまでも、この会社は、有給休暇はないし、休みもろくにもらえない、給料も決まった日にくれなかったり・・・・・・と、いろいろ不満があったのですが、いままで我慢してきました。でも今回だけは泣き寝入りしたくありません。
どうすればいいのでしょうか。近所に家族もいない、頼りになる人、相談できる人もないくてどうしようもない状態なのです。
| 「労働通信」より |
お送りいただいたメールを拝見し、この3年間、一生懸命働いてこられたのに、最後の段階で生活の糧にも困るような仕打ちを経営者がしてきたことにたいし、憤りを禁じ得ません。いくつかの点をお話しさせていただきます。
労働基準法第24条では、賃金支払いの原則として次の5つの点が決められています。貴方の会社のオーナーは、このなかの3番目の原則に違反しています。
1)通貨支払いの原則:
賃金は通貨で支払うこと。現物支給などは認められない。ただし労働者の合意があった場合は銀行口座への振込は認められる。
2)直接払いの原則:
賃金は直接労働者本人に支払うこと。本来はピンハネを防止するための規定です。かりに労働者がサラ金を借りていて、サラ金業者から会社に賃金の譲渡を要求されても、会社はこれに応じてはいけません。
3)全額支払いの原則:
賃金は全額を労働者に支払うこと。ただし、次の場合は例外です。
a)社会保険料等の控除
b)社宅、寮その他の福利厚生施設の費用、社内貯金など事由が明白なもの。
ただし、この場合、労働組合があるときはその労働組合との協定、労働組合がない場合は労働者の過半数とのあいだの協定が必要です。貴方の場合は、このケースにあたりますが、上記のような明文化された協定書などはありますか。この協定書には少なくとも、@控除の対象となる具体的な項目、A各項目別に定める控除をおこなう賃金支払い日などを記載することを労働基準監督署は指導しています。敷金、礼金は半年以内にやめた場合は返してもらうことになっていたそうですが、貴方は3年もつとめていたのですから、差し引くのはどう考えても違法です。しかも不動産屋から具体的な請求もされていないのですから、まったくお話になりません。
4)毎月支払いの原則:
賃金は毎月1回以上支払うこと。
5)一定期日支払いの原則:
賃金は一定期日をさだめて支払うこと。過去のことですが、会社は賃金の支払いも時々遅れたとのことですから、この原則にも反します。
有給休暇についても、労働基準法では半年以上勤務すれば年間10日間(以後、1年たつごとに1日増加)あたえなければならないことになっています。
ちなみに敷金、礼金の件ですが、アパートの部屋は会社または社長が社員のために、家主と賃貸借契約して借りていたものですね。退職するからといって、社員に敷金、礼金を返せというのは変な話しです。例えば貴方の使い方が悪くてで部屋のどこかを壊してしまっていた場合は、会社から修繕費としてお金を請求されることはあるかもしれません。敷金は、そういうときの担保として家主から通常求められるもので、これは解約する際に修繕する箇所がないかぎり返してもらえる性格のものです。礼金はあくまでも礼金ですので、こんなものまで返せといううのはおかしいですよね。
会社がやっていることは、メールの文面を読ませていただく限り、あまりに理不尽というか、わかりやすい違法行為です。
まず、本屋さんなどにいけば労働基準法関係の本があると思いますので、読んでみてください。さきにのべた賃金支払いの原則などは書いてあるはずです。貴方自身がちょっとこれらの本を読んで、理論武装してください。
そのうえで、会社がどうしても態度を変えないのなら、行政機関を使ってみることが一つの手です。行政機関としては、つぎのところがあります。
1)都道府県の労政事務所:
お住まいの都道府県庁なり、都道府県の出先機関に労政事務所というところがあると思います。電話帳などで調べてください。そこで相談してみることです。労政事務所から、会社側に指導や勧告をしてくれる可能性があります。
2)労働基準監督署:
やはり、電話帳でお近くの労働基準監督署を調べてください。ここは、労働基準法の違反を監督する役所です。労基法違反の疑いがはっきりすれば、会社への指導が入ります。
3)市役所等の無料法律相談:
市町村にもよりますが、市役所等で弁護士が無料で市民の法律相談にのってくれるサービスをやっている場合があります。市役所に問い合わせてください。敷金・礼金等の問題は一般の民事になるので、労政事務所や労基署等が対応できない場合はこちらに相談してみてください。
いずれの機関に相談にいくにしても、何となく相談というのはだめで、ちゃんと事実関係を整理して話をもっていってください。すでに不動産屋にも問い合わせをされるなど、かなりよく調査されていると思いますので、担当者がよほど無能でないかぎりは、行政として動かざるを得ないと思います。ふだん、高い税金をはらっているんですから、こういうときこそ行政機関を使わないと損です。
会社も、行政機関から乗り込まれるとびびってしまうと思います。
まず、この会社に、就業規則があるかどうか、確認してください。常勤、非常勤にかかわらず、労働者を10人以上雇用している事業主は、就業規則の作成義務があります。就業規則に定めのない事由での、解雇は認められません。自己都合の場合は別ですが。
実質は、貴方が会社側と円満に話しあっての退職なのに、会社が「書類上は自主退社、事実上はクビ(解雇)」というのには裏があるかもしれません。
「クビだ」というのは、他の社員への牽制かもしれません。
「書類上は自主退社」というのは、中小企業の場合、雇用関係で行政から補助金をうけている場合がおおく、その場合、従業員を解雇すると補助金をもらえなくなる可能性があります。貴方の会社の場合そういう事情があるかもしれません。
通常退職する場合、いまの会社の雇用保険を離脱するための書類に、本人の自筆の署名と捺印をおして、自主退職なのか、解雇なのかを書く欄があります。そこで、断固として自主退職の方に○をするのを拒否すればいいのです。仮にこの書類を会社が改竄したとしても、そのあと会社から発行される離職票をもって職安へいったときに、職安にたいして「書類上は自主退職になっているけれど、社長はクビだといった」という話をすれば、職安から会社にクレームがつくことになります。
貴方の今後の転職にとって、自主退職にした方がいいのか、解雇にした方がいいのか、そのあたりは判断が必要ですが、すくなくとも会社との交渉の際に、「職安にいいますよ!」というのは交渉のカードになると思います。
| 相談者からの返信 |
早々にお返事をいただき、ありがとうございます。
さっそく労働基準監督署へ相談にいきました。そこでは、有給休暇にかんしては「書面にして請求しなさい。有休がないのは違法です。請求したにもかかわらず、受理してもらえなかった場合には調査します」とのことでした。
給料から6万円引かれたことに関しては、「労基署としては、なんともいえない。『6カ月以内に退職した場合には払ってもらう』とだけあるので、退職時に払えとも払わなくていいとも書いてないから、何とも言えません。でも書いてないのだから、裏を反せば払わなくていいととれますけどね。就業規則があるはずですから、確認してください」といわれました。でも、給料からひくこと自体が違法なんですよね。しかも、請求されてもいないものをひくのも変ですよね。
また、労基署からは、「最初からすべてを解決しようとせずに、すこしずつ解決していくように」といわれました。
市の無料法律相談へも行きました。時間制限があったので、敷金礼金についてのみ相談しましたが、弁護士の先生からは、「絶対に払う必要はない!」とはっきりいわれました。
こうした相談をもとに、「あるところで相談したのですが・・・・」ということをにおわせながら、オーナーと話し合いました。そこでは、
の3点にしぼって話しあいました。何もかにも一度にいうと、いつものようにいいまかされてしまう可能性があったからです。
有給休暇についてはあるのか確認したところ、オーナーが「社会保険労務士に聞いてみないとわからない」と答えたので、「私が聞いたところによると23日あると聞きました。そして最初の事情からすべて相談しましたが、今からでも請求しなさいといわれたので、退職日まで有給休暇を取らせてください」というと、あっさり「わかりました」とのことでした。
天引きされた6万円については、私が「違法だと聞いたので、後から払う払わないは別として、いったん返してください」と要求すると、これも「いいよ。いつがいい?」と答え、翌日きちんと返してくれました。オーナーは、「労務士に相談したら、すごく怒られた。給料から引くのは違法だって。だからひとまず返します」とのことでした。でも、給料から勝手に天引きすることは違法だと言うことにかんしては認めたけど、後で請求してくるんじゃないかと心配しています。
就業規則についてはも見せてくれました。
いつもなら、すぐに感情的になるオーナーですが、今回は口数も少なく別人のようでした。
| その後の結末 |
その後、この相談者の方はオーナーに敷金・礼金を払わなくても良いことを正式にみとめさせ、会社を「円満退職」して、現在はあらたな職場で元気にはたらいておられます。
相談者の方からは、「『就業規則』にどんな意味があるのか、労働基準法にどんな意味があるのか、あらためて勉強になりました。いままで働いていて、労働基準法なんていわれてもピンときませんでしたが、今回のことで労働基準法もじっくり読みましたし、つぎに働くときにはかならず役立つと思います。違法をみつけるというわけではなく、きちんとした職場で働くという意味で」というメールをいただいています。
2001年5月/「労働通信」ホームページへの相談事例より
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