| 「労働通信」編集委員会は、今国会で「個人情報保護」の名のもとに言論の自由にたいする規制を加える内容をもった「個人情報保護法案」をはじめとするメディア3法案が上程される事態にあたって、おおくのみなさんとともに反対の意思表示をしめすため以下の声明を発表しました。 |
政府小泉内閣は、今国会に「個人情報の保護に関する法律案」、いわゆる「個人情報保護法案」を提出した。この法案は「個人情報の保護」という、一見聞こえのよい法律名とは裏腹に非常に危険な法律である。
この法律は、個人情報を扱うときに、全国民が対象となる「基本原則」と個人情報を扱う事業者を対象とした「義務規定」で構成されている。
「基本原則」の内容は個人情報を扱う場合、@情報の利用目的を明確にし、その範囲内で扱う、A情報は適法かつ適正な方法で取得する、B情報は正確かつ最新の内容に保つ、C情報の漏えいを防止する、D本人が適切に関与し得るよう配慮するなどである。
「義務規定」の内容は、@情報の利用目的をできる限り特定する、A情報を偽りその他不正な手段で取得してはならない、B情報は正確かつ最新の内容に保つ、C本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならない、D本人から個人データの訂正や利用停止、消去などを求められた場合、遅滞なく対応するなどであり、こちらは違反者への懲役を含む罰則が課せられている。
この法案は曖昧(あいまい)な表現が非常におおい。「適正な……」、「相当の……」、「必要な範囲の……」という抽象的な表現が随所にみられる。しかも、抽象的な表現の解釈や判断は権力者である主務大臣の判断をあおぐこととなっている。いつの時代でも曖昧な表現を利用して、成立当初の趣旨とちがった解釈をおこなえるような逃げ道をつくっておくのは、よからぬ目的を持った権力者の常套(じょうとう)手段であることを忘れてはならない。
この法案も一見、国民個個人のプライバシーを保護するかのようにみえるが、じつは国家が個人の情報を管理し、また支配層にとって都合の悪い情報の流出を防ぐための法律であって、けっして国民個個人のプライバシーを守るものではないといわざるをえない。事実この法案では、国の機関をはじめ本来もっとも厳しく監視しなくてはならないはずの公権力への規制は適用範囲から除外されている。この法律の性格を一言でいいあらわすなら、「個人情報の国家による管理強化を容易にする法律である」といえる。
マスメディア、作家、ジャーナリスト等が反発しているとおり、この法律が適用されれば、支配層にとって都合の悪い取材や報道が法律の名のもとに阻害されてしまう。もちろん法案には「表現の自由、学問の自由、信教の自由および政治活動の自由」を妨げないよう配慮義務が規定されているし、利用目的にそった活動をおこなうことを前提に報道機関、宗教団体、政治団体に義務規定を適用しないとされている。しかし、配慮の判断や利用目的にそっているかどうかの判断は、すべて主務大臣にゆだねられており、ときの権力者によって都合のよいように解釈できる仕組みになっている。配慮義務事項も適用除外事項もあってないも同然であり国民の目をそらすものでしかないのである。
マスメディアでさえこのような状況であるから、義務規定の適用除外に掲げられていないジャーナリストや作家、また民主的な市民団体や労働団体等の活動はいっそうきびしく制限されてく可能性がある。もちろん本誌「労働通信」も例外ではない。
たとえば、「労働通信」誌上に、労基法違反の暴露記事が掲載されたとしよう。その企業名、経営者の情報が特定できるだけで、個人情報保護法を適用される可能性がある。いくら「労働通信」編集委員会の側が、個人情報には該当しないと主張しても、その判断は主務大臣にあり、記事の削除と紙面の回収が命じられる場合もありうる。そして、「労働通信」編集委員会が「個人情報取扱業者」と決めつけられれば、命令違反には6カ月以下の懲役か30万円以下の罰金が課せられることとなるのである。
小泉政権が今国会での強行採決を狙っている有事法制は、有事における国民の動員・権利制限を行うことを目的としているが、それだけでは、国民を納得させ素直に動かすことはできない。支配層は、彼らにとって「従順」な国民を作るため、戦争を受け入れやすい国民精神の醸成を「平時」よりすすめ、邪魔な反戦平和運動や不正を暴こうとする市民運動・労働運動への弾圧を徐徐に強化している。そして支配層がそれらをおしすすめるための基本中の基本が個人情報の国家による徹底的な管理である。誰がいつ何を行なおうとしているのか。反権力的な思想をもったものは誰なのか。民主的大衆運動の指導者を特定し、それを萌芽のうちに摘み取る。逆に、支配層側の情報はいっさい民衆の側には流さず法律によりブロックする。これはもうメディアだけの問題ではなく、私たちの平和な生活に関わる重大問題である。「個人情報保護法案」は有事法制と一体となって提出されるべく提出された法案であり、平時における階級支配を一層強化し日本帝国主義を維持し温存していくためにはなくてはならないものである。
われわれ、「労働通信」編集委員会は、労働者、勤労者そしてすべての民主的活動にとって百害あって一利なしの反動的で欺瞞に満ちた「個人情報保護法案」をはじめ、「人権擁護法案」、「青少年有害社会環境対策基本法案」などのいわゆる「メディア規制3法案」に、断固反対し廃案を要求する。
2002年5月8日 「労働通信」編集委員会